Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

テナガエビ Macrobrachium nipponense

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テナガエビ Macrobrachium nipponense  (De Haan, 1849)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

 本州および九州に生息する温帯型分布テナガエビ属の1種。
本種には遺伝的に分化した3つの型(河川型、淡水湖沼型、汽水湖沼型)が存在し、それぞれ生息環境が異なる。

河川型:河川河口~下流に生息し、小卵多産型である。
淡水湖沼型:淡水性の湖沼に生息し、大卵少産型である。
汽水湖沼型:汽水性の湖沼に生息し、中卵中産型である。

過去の文献によると、河口型および汽水湖沼型の生息域は一致し、関東以南および新潟以西に生息している。淡水湖沼型は仙台平野から西日本各地のダム湖等で見られるという。

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額角歯式は 2-3+7-11/2-4 で、額角は細長い木の葉型である。
ヤリ状額角のようにも見えるが、ザラテテナガエビなどに比べ上方への湾曲が緩く、幅広である。
本種はミナミテナガエビと似るが、より額角が細長く、触角鱗に達することが多い。

また、ミナミテナガエビとは頭胸甲側面の3本の斜横線の形状から区別することが可能である。
ミナミテナガエビは太い「m」であるが、本種は線が細く、真ん中は折れ曲がる
他にも胸脚の指節長が長く下流域に生息するエビらしい特徴が出る。

経験則だが、ミナミテナガエビよりも低温に強いと感じる。

 

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関東産 河川型の雄

この個体は、河川河口域で採集された河川型の本種である。
個人的に、河川型の個体の方がはさみに密に軟毛が生えるように感じた。

以下の淡水湖型(?)については、河川中流域で採集された個体である。
しかし、遺伝的に関東陸封集団に含まれることが示されているため、淡水湖型(?)として紹介する。

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関東産 淡水湖型(?)の雌 

ミナミテナガエビと同様の環境で採集されることも多いが、頭胸甲側面の3本の斜横線のうち真ん中の線が明らかに曲がっているので判別は容易である。
わかりづらい場合は、はさみに剛毛が多いという点でも同定できるが、この点を用いて同定した経験はない。

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関東産 淡水湖型(?)の雌

腹節側面下部に少し黒色の模様が出ている。このような模様は、ザラテテナガエビやスベスベテナガエビの雌でも見られるため、抱卵するうえで何等かの利点があるのかもしれない。

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滋賀県産 淡水湖型の雄

この個体は琵琶湖流入河川で採集されたものである。
文献によると、琵琶湖産の本種は霞ケ浦から移入された国内外来種であるとされる。

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滋賀県産 淡水湖型(未成体)

上の個体と同所的に採集された個体。
関東で見られる個体と同じような体色・雰囲気であり、関東から持ち込まれたという個体群というのも納得である。

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関東産 淡水湖型(?)(未成体)

このように斜横線が比較的まっすぐな個体は同定に悩むことがある。
加えて額角の長さからも判断が難しいため、第3胸脚の指節長が有効である。

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関東産の淡水湖型(?)の幼体

この大きさでも、頭胸甲側面の模様から十分同定できる。
経験則だが、ミナミテナガエビの幼体は斜横線が明瞭なため区別が楽である。
また、幼体は同じ環境を好むのか1網で100以上採れることもある。

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参考文献一覧

・Kazuo Mashiko, Kenichi Numachi, 2000. Derivation of Population with Different-sized Eggs in the Palaemonid Prawn Macrobrachium nipponense. Journal of Crustacean Biology, 20(1): 118-127.
・益子計夫, 2011. エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類保全と生物学 3.3 テナガエビ類はいかに進化してきたか p273-289. 生物研究社. 東京.
・大野淳, N. ARMADA, 1999. テナガエビ属の種と地域個体群の分化. 海洋と生物(123): 319-329.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・吉郷英範, 2002. 日本のテナガエビ属(甲殻類:十脚類:テナガエビ科). 比婆科学 206: 1-17.

チュウゴクスジエビ Palaemon sinensis

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チュウゴクスジエビ Palaemon sinensis  (Sollaud, 1911)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>スジエビ

南は九州、北は宮城県まで記録がある外来のスジエビ
1969年以降から、「シラサエビ」として中国・韓国から釣り餌用に輸入されていた。
現在は、検疫の関係で生きた状態での輸入は行われていないとされる。

日本の多くのスジエビ類とは異なり、純淡水性の生活史を持つ。
分散力が低いため、分布は広いが散在的である。

形態的にスジエビ Palaemon paucidens に酷似しているが、頭胸甲側面の模様で識別することが可能である。
加えて、眼柄と眼の比率や大顎の触髭の有無、尾節末端の形状で判別できるとされるが、それぞれの形態的特徴を総合的に判断する必要がある。
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額角歯式は 0-2+2-6/0-3 で、額角先端に歯が無いのが特徴である。
しかし筆者は、額角先端に鋸歯を持つ個体も確認している。
(ただし、スジエビほど先端寄りではない)

 

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本種はスジエビよりも眼が小さい傾向にある。
文献によると尾節先端は尖るというが、怪しい。少なくとも、デジタルカメラで撮影した限りではスジエビ(Aタイプ)との明瞭な差異は確認できなかった。

 

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神奈川県産の個体
頭胸甲側面の3本の斜横線のうち、最後方の線の上部がフック状に曲がる点がもっとも一般的な識別方法である。
スジエビに比べて、体色が全体的に白っぽい点も識別の際に有効である。

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東京都の池で採集された個体
フック状の斜横線がわかりにくいこともある。
経験則ではあるが、スジエビの「\ /」模様に対して、本種は「\l/」という模様になることが多い。

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東京都の池で採集された個体
これも経験則だが、スジ模様が赤褐色になる傾向があるように感じる。
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上の個体の額角
余談だが、この固体は若干ではあるが額角先端に鋸歯を持っていた。


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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2014. ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本淡水性・汽水性甲殻類102種. 誠文堂新光社, 東京. 
・斉藤英俊, 2017. 外来釣り餌動物チュウゴクスジエビ Palaemon sinensis の流通に及ぼす新輸入防疫制度の影響. 日本水産学会誌.
・斉藤英俊, 鬼村直生, 米谷公宏, 清水織裕, 小林薫平, 児玉敦也, 河合幸一郎, 2018. 外来釣り餌動物チュウゴクスジエビ Palaemon sinensis の出現状況. 広島大学総合博物館研究報告 Bulletin of the Hiroshima University Museum 9: 33-39.
・内田大貴, 石塚隆寛, 加納光樹, 増子勝男, 池澤広美, 土屋勝, 2018. 茨城県菅生沼において採集された外来魚3種と外来エビ1種. 茨城県自然博物館研究報告(21): 149-153.
・長谷川政智, 森晃, 藤本泰文, 2016. 淡水エビのスジエビ Palaemon paucidens に酷似した外来淡水エビ Palaemon sinensis の宮城県における初確認. 伊豆沼・内沼研究報告 10巻, pp. 59-66.

オニヌマエビ Atyopsis spinipes

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オニヌマエビ Atyopsis spinipes  (Newport, 1847)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>オニヌマエビ属

南西諸島に生息している、体長75㎜を超える大型のヌマエビ類。
近年の研究で関東でも無効分散と考えられる個体が少数ながら記録されており、東限および北限は千葉県・神奈川県である。
沖縄島にも比較的多く生息しているが、八重山列島特に個体数は多い

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第1,2胸脚の先端は非常に長い剛毛に覆われる。
上写真のように剛毛を網のように広げることで浮遊物を摂食している。
特に夜になると早瀬の転石の側面などに張り付き、剛毛を広げている様子を観察することができる。

この独特な生態の影響か、形態は水の抵抗を受けにくい形になっていると感じる。

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額角歯式は 0+0/1-8 で短い。

体色は正中線に太い1本線体側には縦縞が多く入るのが特徴。同じような生態を持つミナミオニヌマエビとは体色で容易に区別が可能である。

河川全域の早瀬環境に生息しており、ミナミオニヌマエビが優占し始める最上流域では個体数が少ないように感じる。

本種とミナミオニヌマエビは、生態的・形態的に類似しているため、同属と思うかもしれない。しかし、オニヌマエビは1属2種のオニヌマエビ属である。(ミナミオニヌマエビはミナミオニヌマエビ属)

この2属の決定的な違いは、第3顎脚指節の形状である。
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ミナミオニヌマエビ属は先端に棘を持つが、先端に棘は無く剛毛に覆われる

本属は、オニヌマエビ A.spinipes とアジアロックシュリンプ A.moluccensis から構成されており、互いに形態的に酷似している。
アジアロックシュリンプは日本には生息していないが、額角の長さと下縁歯数で識別可能であるという。

 

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八重山列島で採集された個体
成体になる前はオレンジっぽい茶色であることが多い。
水の抵抗を受けにくそうな流線形のフォルムが独特である。

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沖縄島で採集された個体

正中線上の太い1本線と、体側の複数の縦縞が明瞭である。
経験上、本種は色彩変異に富むが、この体色が最も普通である。

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八重山列島で採集された個体

少し写真がブレているが、第6腹節に黒色の帯が出ている個体。
このような体色もしばしば見かけることがある。

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八重山列島で採集された個体
大型の雄の個体は、第3胸脚が肥大化する。
オニヌマエビの雄は第3胸脚を用いて交尾前ガードをするらしい。

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八重山列島で採集された雄の個体

体長65㎜程度のかなり大型の雄。これでも最大には10㎜届かない。
ここまで大きくなると、もはやヌマエビとは別の生物のようだ。

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八重山列島で採集された個体

地色が明るい黄色で、正中線上の縦線が黒く縁どられている個体。
加えて、体側にはあたかもシュガースポットのような黒斑が出ており、申し訳ないがバナナにしか見えない。
実際、英語圏では別名として"Banana Shrimp"と呼ばれる*ことがある。(通常はBamboo Shrimpと呼ばれている)
Googleで「Banana Shrimp aquarium」と検索した結果に基づく個人的な判断

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八重山列島で採集された個体

体色が茶褐色というよりも、青みがかった灰色というような感じの個体。
このような体色の個体も少なくない。
余談だが、本種をケースに入れて撮影すると写真のように変な姿勢でじっとしてしまうことがあるため、ケースに入れないで適当に済ませてしまうことが多い。

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八重山列島で採集された個体

特徴的な縦縞模様や正中線上のラインが明瞭な個体。
摂食時に使う第1・2胸脚はさみの剛毛束は折りたたむことができる

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奄美群島で採集された幼体

沖縄島では比較的安定的に生息していたが、奄美群島ではあまり個体数は多くない印象であった。加えて、幼体が多く大型個体を見ることができなかった。

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奄美群島で採集された幼体

上の個体と同所的に採集された個体。体色は緑がかっており、幼体でも体色のバリエーションは見られるようだ。

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関東で採集された個体

黒潮によって回遊してきたと思われる個体。この大きさでも特徴的な体色は鮮明である。
関東に回遊してくる個体数は少なく、なかなか見ることができない。

 

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参考文献一覧

・丸山智朗, 2015. 三浦半島におけるオニヌマエビ(節足動物門:十脚目:ヌマエビ科)とコンジンテナガエビテナガエビ科)の記録. 神奈川自然誌資料(36): 41-44.
・丸山智朗, 2018. 相模湾および周辺海域流入河川において2016年8月以降に採集された熱帯性コエビ類5種の記録. 神奈川自然史資料 (39): 31-38.

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.

リュウグウヒメエビ Caridina laoagensis

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リュウグウヒメエビ Caridina laoagensis  Blanco, 1939
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属

南西諸島に生息している熱帯性のヌマエビ類。近年の研究で、無効分散と思われる個体が関東でも確認されている。

和名は非常にユニークであるが、見た目はトゲナシヌマエビと瓜二つで地味である。ただ、額角上縁に鋸歯が並ぶので、ルーペ等で観察すれば識別が可能である。

本種は、河川中・下流域の流れの速い環境に生息し、同じような流域に生息するヒメヌマエビミゾレヌマエビとは異なる環境を好む。

 

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(左:雌の成体、右:雄の未成体)
額角歯式は 0+10-22/2-6 であり、頭胸甲上に鋸歯を持たない。
本種に類似しているオオバヌマエビも頭胸甲上に鋸歯を持たない個体が発見されており、歯式のみでの同定は難しい。
しかし、オオバヌマエビの鋸歯は本種のものより圧倒的に大きいため、識別は容易である。
余談だが、オオバヌマエビの継代飼育を行っている方に幼体の額角を観察させていただいたところ、鋸歯が小さく、リュウグウヒメエビとの区別が全くできなかった。そのため、幼体の同定は第5胸脚指節の観察も行ったほうが良いかもしれない。

 

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また、腹節背面の模様がトゲナシヌマエビと少し異なることが多い。
写真は双方ともリュウグウヒメエビであり、腹節背面の横縞は正中線と垂直である。
トゲナシヌマエビの斜めに入る横縞はあまり見られない。

しかし筆者の経験上、南西諸島では正中線と垂直な横縞を持つトゲナシヌマエビも少なくなく、この特徴のみで同定するのはお勧めしない。
結局のところ、色彩だけでなく形態も合わせて同定することが重要である。

 

近年の研究によると、琉球列島にはリュウグウヒメエビと近縁な種が複数種いるとされているが、今回扱うのはリュウグウヒメエビCaridina laoagensis1種である。

 

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東海地方産(雌)

正中線に金色の1本線が入るのも本種の特徴らしい。
また、腹節背面の正中線と垂直になる横縞も明瞭である
この固体は比較的赤みが強く、トゲナシヌマエビとの区別がしやすい。

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石垣島産(雌)

体全体に雪の結晶のような斑があり、非常に美しい。
腹節の横縞である程度同定することが可能である。

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関東産の個体(雄)

採集してから数日経過していることもあるが、雄のほうが色が薄いことが多く、同定が難しい印象である。
少なくとも、このような個体は額角上縁の鋸歯を確認しないと同定することができない。

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西表島産(雌)

紹介するのを忘れていたが、頭胸甲側面の「~」を逆にしたような模様は、Caridina laoagensis最大の特徴らしい。
ただし、この模様は生時にしか見られないことに加え、不明瞭であることが多い。

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沖縄島産(雌)

色彩的に上の西表島産の個体と類似している。
ただし、こちらの個体は頭胸甲側面の「~」模様が白色である。

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沖縄島産(雌)同行者採集

上の個体と同所的に採集された個体。
本種は他のヌマエビ類と比べても抱卵している確率が高いように感じる。
筆者の飼育経験上、トゲナシヌマエビヤマトヌマエビと異なり、放幼後もすぐに抱卵することが多い。

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沖縄島産(雌)同行者採集

上の個体らと同所的に採集された個体だが、珍しく緑褐色であった。
経験上、本種の色彩は採集環境や地域ごとの特徴はないように感じる。

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沖縄島産(雌)

胸脚が欠落している個体。
写真整理していて気付いたが、尾扇後端が白色になっているため、オオバヌマエビと誤同定しないようにも気を付けたい。
そのため、慣れないうちは額角の形状で同定するのがよい。

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与那国島

頭胸甲側面の「~」模様と腹節背面の横縞が明瞭で、正中線に黄色の縦線が入るため、非常にわかりやすい個体である。
ただし、このような薄い地色に緑褐色の斑が出る個体は初めて見た。

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東海地方産(雌)

成熟した雌は、その他ヌマエビ類と同様に濃い体色になる傾向があるようだ。
腹節背面の正中線上の黄色線と垂直に交わる横線が明瞭である。
経験則だが、雌の個体は腹節背面の模様で同定できることが多いように感じる。

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東海地方産(雌)

上の個体と同所的に採集された個体だが、全体的に赤褐色で腹節背面の模様が不明瞭である。よく見ると頭胸甲側面の「~」を反対にした模様が確認できる。

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東海地方産(雄)

腹節背面の模様は確認できないが、正中線上の黄色の線が明瞭であり、頭胸甲側面の「~」のような模様も不明瞭ながら確認できる。
このような色彩は水槽等に入れると落ちてしまうことが多く、なかなか見ることができない。


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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・丸山智朗, 2017. 神奈川県および伊豆半島の河川から採集された注目すべき熱帯性コエビ類5種. 神奈川自然史資料 (38): 29 - 35.
・丸山智朗, 福家悠介, 2018. オオバヌマエビの沖縄島からの初記録. Fauna Ryukyuana, 43: 11-17.

コンジンテナガエビ Macrobrachium lar

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コンジンテナガエビ Macrobrachium lar  (Fabricius, 1798)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

琉球列島で最も優占している最大体長150mmにも達する大型のテナガエビ
死滅回遊で本州にやってくることが知られているが、おそらく温排水の影響を受ける水域では死滅せず、再生産を行っていると考えられる。

 

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額角は鈍いヤリ状で、歯式は 2+5-7/2-4 と、テナガエビ類の中では上縁歯数が少ない類である。小型個体は、この特徴を用いて同定することができる。(ただし、幼体は頭胸甲上に1歯しかない。)

成体の体色は、上の写真のような個体がほとんどで、黒く長いはさみ脚が特徴的である。
長い鉗脚を持っているにもかかわらず、遡上力は凄まじい落差50m以上の滝上でも確認することができた。
そのため、河川中下流域から最上流域までいたるところで確認することができる。

 

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若い雄の個体。
特徴的なはさみの形状になっていないが、額角歯式で同定することができる。
また、若い個体は全体的に薄い茶褐色になる印象である。

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八重山列島産の成体雌。
気にしたことが無かったが、雌の個体は色が薄いのかもしれない。
はさみの先端は黒っぽくなるが、オレンジ色の模様があるのも特徴である。

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奄美群島で採集された個体

沖縄島以南では個体数が多い印象であるが、奄美群島の河川では個体数は少ない印象を受けた。
一方で、山道の側溝でたくさん生息していたため、もしかしたら特殊な環境で優占しているのかもしれない。

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奄美群島で採集された雄の個体

この個体は地下水脈で採集された。
白濁りとは異なり、地下で採集された個体は体色が白いことが多い。
この水域では複数個体確認されたため、地下水系にも普通に侵入してくるとされる。

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東海地方産の雌の個体
上述で雌の個体は色が薄いかもしれないとしたが、そんなことはなかった。
成体と言うにはまだ若い個体だが、体色は全体が濃い褐色である。

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東海地方産の幼体
成体に比べると黒い色素胞の数が少なく、全体的に薄い体色である。
この大きさでも比較的額角上縁の鋸歯は大きく、肉眼でも数えられる。

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東海地方産の幼体
この大きさの個体に多いが、頭胸甲側面に3本の斜横線が見られることがあるので、ミナミテナガエビ等との誤同定に注意したい。

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関東産の1㎝未満の個体。
慣れないとテナガエビかどうかも判別するのが難しいかもしれないが、慣れれば額角歯式を見るだけである程度同定することが可能となる。
ただ、この固体はコンジンテナガエビの可能性が高いが、コツノテナガエビの可能性もある。

 

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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・丸山智朗, 2017. 神奈川県および伊豆半島の河川から採集された注目すべき熱帯性コエビ類5種. 神奈川自然史資料 (38): 29 - 35.
・吉郷英範, 2002. 日本のテナガエビ属(甲殻類:十脚類:テナガエビ科). 比婆科学 206: 1-17.

コツノテナガエビ Macrobrachium latimanus

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コツノテナガエビ Macrobrachium latimanus  (Von Martens, 1868)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

神奈川県以南の南西諸島から記録されているテナガエビ類。
内地での記録は無効分散によるものとされ、個体数は極めて少ない
1990年頃に鹿児島県大隅半島で記録されているが、それ以降、九州本土からの記録はない。
また、南西諸島においても個体数は多くはないが、場所によっては優占していることもある。

体長は、最大で96mm程度と熱帯性のテナガエビの中では大型な種である。

生息環境は河川上流域で、瀬ではなく、淵にある岩の間隙で見られることが多い。
また、海外の文献によると標高1300m以上の水域で記録されたこともあるという。
そのため、鉗脚や額角は急流域に適応したような形態となっている。

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例えば、鉗脚は他のテナガエビ類と比べて太く短い。
特に腕節が著しく短くなっており、三角形のような形態となっている。

 

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本種の上縁歯数は、6~12歯(うち頭胸甲上に1~2歯)と、コンジンテナガエビとともに少ない部類に含まれる。
そのため、稚エビを同定する際には、この少ない鋸歯数が有効である。

額角の形状は木の葉型とされているが、個体によっては上方に緩く湾曲した形状になることもある(上写真)。

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稚エビの場合、コンジンテナガエビのように細いヤリ状である。
内地で見られるテナガエビの稚エビは、基本的に細長いヤリ状の額角を持つことはなく、この点は色彩的に類似し得るヒラテテナガエビとの区別に有効であると感じる。

体色は、幼体では下の写真のように透明感のある色彩を有していることが多いが、成体では全体的に濃い褐色で味気ないことが多い。

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左:コツノテナガエビ(幼体)、右:チュラテナガエビ

写真のように、幼体や若い個体には、腹節背面に正中線に対して垂直となるような横縞が複数見られる
この大きさの個体は、右のチュラテナガエビと類似するが、腹節背面の横縞が細く真っ直ぐである点で異なる。

 

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八重山列島で採集された個体

横から見るとわかりやすいが、額角は非常に広い木の葉状になっている。
"コツノ=小角"という和名が充てられているが、小さいというより太短い額角である。

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八重山列島で採集された個体

上の個体と類似して、若い個体の特徴である腹節背面の横縞が残っている。
また、はさみの先端部には、剛毛が疎らに生えるようだ。
側面から見ると、短い額角や鉗脚の腕節、歩脚の指節など、本種がいかに上流域に適応しているかを観察することができる。

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八重山列島で採集された抱卵個体

抱卵しているが、まだまだ若い個体であるため、腹節の横縞が鮮明である。
個人的な意見だが、このサイズの体色が最も美しいと感じる。

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八重山列島で採集された未成体

頭胸甲側面には、後方が下方に向く孤のような1曲線が出るのが特徴である。
しかし、このような特徴は他のテナガエビ類にも見られるため、他種との区別にはあまり有効でないかもしれない。

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本州で採集された幼体

体長1cm程度の個体であるが、若い個体の特徴である腹節の横縞は鮮明である。
ただし、撮影ケースに長く入れておくとあっという間に色が抜けるので注意。

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本州で採集された幼体

これは、採集してから長時間経過してから撮影した個体。
腹節の模様が不明瞭となり、同定は非常に困難である。

本州でこのような個体を採集したら、額角を入念に調べる必要がある。
鋸歯数が少なければ、本種かコンジンテナガエビに絞ることができるほか、上記2種の幼体は、ともに細長いヤリ状の額角であるので判別しやすい。
その後は、飼育して体色が鮮明になったときに識別するのが良い。

 

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参考文献一覧
・H Suzuki, N Tanigawa, T Nagatomo, E Tsuda, 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atydae and Palaemonidae) from Southern Kyushu and adjacent islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research 22; 55-64.
・丸山智朗, 2018. 相模湾および周辺海域流入河川において2016年8月以降に採集された熱帯性コエビ類5種の記録. 神奈川自然史資料 (39): 31-38.
・Robert A Irving, Terence P Dawson, Daisy Wowor, 2017. An amphidromic prawn, Macrobrachium latimanus (von Martens, 1868) (Decapoda: Palaemonidae), discovered on Pitcairn, a remote island in the southeastern Pacific Ocean. Journal of Crustacean Biology, Volume 37, Issue 4, Pages 503-506.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.

ヒメヌマエビ Caridina serratirostris

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ヒメヌマエビ Caridina serratirostris  De Man, 1892
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属

南西諸島から関東や石川県にかけて分布するヌマエビ類。
西日本以西では比較的個体数が多いが、関東や北陸では個体数はあまり多くない。
そのため、分布の北・東限では、一部の水域を除き、越冬できていないと考えている。

体長は25㎜程度と、和名の通り小型のヌマエビである。

生息環境は、河川中・下流部の緩流部で、水に浸った植物や落ち葉の周辺を好む。
本種の派手な体色は、落ち葉の間隙において保護色の役割を果たすと考えられている。

本種は、額角上縁、特に頭胸甲上に多くの鋸歯を有するのが特徴である。
実際、種小名「serratirostris」は、「鋸歯状の額角の」というような意味であり、記載される際にもこの形態的特徴が注目されていたと考えられる。

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額角歯式は 7-8+10-17/2-9 とされているが、当てはまらないこともある。
額角長は、第1触角柄部第3節中間に達する程度で、中くらいの長さである。

本種は、近縁種のコテラヒメヌマエビと酷似している。
さらに文献によると、これらの種の中間的な形質を示す個体が発見されていることもあって、かつてこの2種を亜種とする意見もあったという。

2020年のC学会において、このような分類的問題に関する発表があったと聞いているが文献等は公表されていないため、本ブログでは論文等が発表されるまでこの2種を同種として扱うことにする

日本では Caridina という属名ヒメヌマエビ属と称しているため、人によってはヒメヌマエビがこの属のタイプ種だったり、最も普遍的であると感じるかもしれない。
しかし、ミトコンドリア16SrRNAやCytochrome oxidase subunit 1 を用いた研究によって、他のヒメヌマエビ属とはかなり早い段階で分岐しており、他種とは系統的に一線を画していることがわかっている。

 

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関東で採集された個体

ヒメヌマエビには大きく2つの体色パターンがある。
1つ目は白い横縞模様が入る個体である。おそらく、ヒメヌマエビと聞いて想像するのはこのような体色であると思われる。

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関東で採集された個体

もう一方の体色は、無地に正中線に一本線が入るタイプ。
上のより少し地味かもしれないが、関東ではこの体色のほうが多いと感じる。

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関東で採集された個体

本種は全体的に赤・茶褐色系になる個体が多いと感じる。
この熱帯性の種を彷彿させるような色彩から、本種の飼育を考える人は多いかもしれない。
実際、筆者は飼育を試みたことがあるが、この体色の維持は非常に難しかった

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徳之島で採集された雌の個体

白い帯や斑が多く見られる美しい個体。
筆者の経験上、徳之島の河川では特に個体数が多く、優占していることも多かった。

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沖縄島で採集された個体

赤が多いと書いたが、カラーバリエーションは豊富である。
しかし、このような青い色彩の個体はあまり見たことがない。

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東海地方で採集された個体

この個体は、非常に濃い黒色である。
濃茶褐色の個体はよく見かけるが、このような体色の個体も青系と同様にあまり見かけない。

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石垣島で採集された抱卵個体

地色が白色で、黒い斑模様が見られる個体。
おそらく、白色の帯の面積が広くなったような感じなのだろう。
八重山列島では、この個体のように額角長が第1触角柄部先端まで達するような、長い額角を持つ個体が多いように感じる。

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与那国島で採集された抱卵個体(同行者採集)

内地では、まず見ることがない体色である。
頭胸甲から腹節にかけて、地色が青緑から暗色にグラデーションを呈しており、思わず息をのんでしまうほど美しい個体だった。

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与那国島で採集された抱卵個体(同行者採集)

上の個体と同所的に採集された、縦縞タイプの個体。
このように、南西諸島だからと言って派手な色彩を呈する個体が多いわけではなく、むしろ、地味な縦縞タイプの個体のほうが多い

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関東で採集された幼体

熱帯性コエビ類の採集をしていると、10㎜程度の個体をよく見る。
このような小さな個体でも、写真のように体色がはっきりしている(他のヌマエビ類は、透明であることが多い)ため、同定は容易である。

 

上述した通り、コテラヒメヌマエビとの外部形態での識別が可能になるとの文研が発表され次第コテラヒメヌマエビのページを作成する予定です。
また、ヒメヌマエビ類は体色のバリエーションが豊富なので、ここに載せていないような体色の個体の撮影が終わり次第、更新していく予定です。

 

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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2014. ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本淡水性・汽水性甲殻類102種. 誠文堂新光社, 東京. 
・朝倉彰, 2011. エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類保全と生物学 1 .4 淡水産コエビ下目の生物地理 75-102. 生物研究社. 東京.
・Page, T. J., Cook, B. D., Rintelen, K. v. & Hughes, J. M., 2008. Evolutionary relationships of atyid shrimp imply both ancient Caribbean radiations and common marine dispersals. Journal of the North American Benthological Society, 27: 68-83.
・鈴木廣志, 佐藤正典, 1994. 淡水産のエビとカニ, 西日本新聞社, 福岡.