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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ヒラテテナガエビ Macrobrachium japonicum

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ヒラテテナガエビ Macrobrachium japonicum  (De Haan, 1849)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

南西諸島から石川県、福島県まで広く分布しているテナガエビ類。
沖縄島~関東地方では個体数が多いが、八重山諸島や北限付近では個体数が少ない。

体長は92㎜に達するとされ、テナガエビ属の中でも標準的なサイズ。

温帯域で普通にみられる3種(本種、ミナミテナガエビテナガエビ)のなかでは、比較的上流域を好む種であり、河川中流域~上流域で採集されることが多い
ただし感潮域でも、流れの速い環境であれば普通に見ることができる。

上述したように流速のある環境で採集されることが多いが、周辺の淵や落ち葉が溜まっているような環境で採集されることも少なくない。

個人的な経験上、早瀬で採集されることが多い本種であるが、同様に早瀬を好むネッタイテナガエビと同時に採集されることが少なく、同じ瀬の中でも、ある程度の棲み分けをしていると考えられる。
経験上、ネッタイテナガエビの方が、より流れが速い環境で採集されることが多い印象である。

 

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額角歯式は 4-5+5-7/2-4 で、額角は第1触角柄部先端に到達する。
特に、頭胸甲上の鋸歯数が多いため、温帯域の他種との区別は容易である。

生時の色彩に関して、地色は茶褐色であることが多く、第3腹節背面に黒い横帯が見られるのが特徴である。
また、頭胸甲側面には暗色の縦縞が複数本見られ、成体では網目模様になる。
ただし、一部の水域(特に南西諸島)では、縦縞や腹節背面の帯が白色になることが多く、かなり雰囲気が違って見える。

このような色彩的特徴は、同様な環境を好むネッタイテナガエビと類似しており、慣れないと識別するのが難しい。

 

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関東で観察された雄の個体

写真のように、第2胸脚は左右非対称であることが多い。
上で頭胸甲側面などの色彩的特徴を述べたが、成体になると薄くなる印象がある。

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関東で観察された雄の個体

上の個体同様に、頭胸甲側面の線は不明瞭である。
第3腹節背面の横帯は黒色よりも白色が目立っている。


石垣島で採集された雄の個体

観察ケースに入らなかったため、網の上で撮影した。
八重山諸島では個体数が少なく、このような大型個体は滅多に見ることができない。

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沖縄島で採集された雄の個体

頭胸甲側面に金色の縦縞が見られる。
このような色彩は沖縄島でよく見ることができる。

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沖縄島で採集された個体

この個体は体色がかなり薄く、頭胸甲側面の縦縞が不明瞭である。
しかし第3腹節背面の横帯は明瞭であるため、同定は難しくない。
余談だが、本種の横帯は腹節下部まで到達しないので、帯の長さでネッタイテナガエビとの区別できる場合がある。

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沖縄島で採集された抱卵個体 (同一個体)

上の方は体色が薄く、頭胸甲側面の縦縞も白色である。
さらに腹節下部に白色の模様が入るほか、腹節背面の帯も白が目立っており、慣れないと本種と判断するのが難しい。
しかし、10分程度放置したら、下のように普段見るような体色に戻った。
このような変な色彩の場合は、放置すると同定しやすくなる場合もある。

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徳之島で採集された雄の個体

南西諸島の清流域でよく見られる美しい色彩の個体。
頭胸甲側面の縦縞や第3腹節背面の横帯が白っぽく縁どられるため、南方種を彷彿させる体色である。
余談だが、奄美群島の河川急流域には南方系のテナガエビ類が少ないため、本種の生息密度が非常に高いことが多かった。

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徳之島で採集された雌の個体

ネッタイテナガエビと非常に類似した雰囲気の個体。
さらに、採集された環境も早瀬環境であったため、初見では正確に見分けることは難しいと感じた。
このような体色は、早瀬環境で生息するうえで何らかのメリットがあるのかもしれない。


関東で採集された抱卵個体

環境にも影響されるだろうが、内地でみられる大型のメス個体は濃色であることが多い印象である。
この個体は頭胸甲側面の模様も不明瞭であるが、金色の小斑が優雅である。

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関東で採集された雄の個体

上の固体らと比べてかなり若い個体で、第3腹節後方の黒い横線が明瞭である
また、頭胸甲側面には網目模様が見られる。

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関東で採集された抱卵個体

言及していなかったが、茶色の個体だけでなく、このような青みがかった体色の個体や黒っぽくなる個体もいる。

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東海地方で採集された個体

頭胸甲側面の縦縞が網目模様のようになっている。
この大きさでは、色が薄くなるとネッタイテナガエビと区別しづらい場合があるので、南西諸島で採集された個体を同定する場合には注意したい。

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関東地方で採集された未成体

生後1年未満の小さな個体。頭胸甲側面の縦縞が明瞭である。
これより小さい個体でも、色彩がはっきりしていれば同定可能である。

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徳之島で採集された未成体

採集から撮影までに時間が空いてしまったため、全体的に薄い色彩になっている。


石垣島で採集された未成体

沖縄島以北では多くの河川で優占しているが、八重山では個体数が少ない印象である。
ちなみに、宮古諸島では比較的多産する環境もあるため、八重山諸島で多産するネッタイテナガエビ等との競合が個体数を制限する要因となっているのかもしれない。


石垣島で採集された未生体(雌)

南西諸島でよく見かける印象であるが、色が薄くなった個体は胸脚の節のオレンジ色が明瞭になることがある。

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石垣島で採集された雌の個体

比較的大型の雌だが、頭胸甲側面の模様は鮮明。
沖縄の個体と本州の個体では、幼生期の大きさといった点で異なるらしい。

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関東で観察されたペア

交尾前ガードと呼ばれている雄による雌の抱え込み。雌は脱皮直後でないと精胞を受け取れないので、雌を抱え込んでガードするらしい。

 

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参考文献
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・丸山智朗, 乾直人, 池澤広美, 2018. 温泉水の流入する釜戸下流域(福島県いわき市)における十脚甲殻類の記録. 茨城県自然博物館研究報告(21): 135-142.
・丸山智朗, 2017. 越前・能登佐渡の河川で採集されたコエビ類. Cancer 26: 35-42.