Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ヒメヌマエビ Caridina serratirostris

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ヒメヌマエビ Caridina serratirostris  De Man, 1892
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属

南西諸島から関東や石川県にかけて分布するヌマエビ類。
西日本以西では比較的個体数が多いが、関東や北陸では個体数はあまり多くない。
そのため、分布の北・東限では、一部の水域を除き、越冬できていないと考えている。

体長は25㎜程度と、和名の通り小型のヌマエビである。

生息環境は、河川中・下流部の緩流部で、水に浸った植物や落ち葉の周辺を好む。
本種の派手な体色は、落ち葉の間隙において保護色の役割を果たすと考えられている。

本種は、額角上縁、特に頭胸甲上に多くの鋸歯を有するのが特徴である。
実際、種小名「serratirostris」は、「鋸歯状の額角の」というような意味であり、記載される際にもこの形態的特徴が注目されていたと考えられる。

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額角歯式は 7-8+10-17/2-9 とされているが、当てはまらないこともある。
額角長は、第1触角柄部第3節中間に達する程度で、中くらいの長さである。

本種は、近縁種のコテラヒメヌマエビと酷似している。
さらに文献によると、これらの種の中間的な形質を示す個体が発見されていることもあって、かつてこの2種を亜種とする意見もあったという。

2020年のC学会において、このような分類的問題に関する発表があったと聞いているが文献等は公表されていないため、本ブログでは論文等が発表されるまでこの2種を同種として扱うことにする

日本では Caridina という属名ヒメヌマエビ属と称しているため、人によってはヒメヌマエビがこの属のタイプ種だったり、最も普遍的であると感じるかもしれない。
しかし、ミトコンドリア16SrRNAやCytochrome oxidase subunit 1 を用いた研究によって、他のヒメヌマエビ属とはかなり早い段階で分岐しており、他種とは系統的に一線を画していることがわかっている。

 

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関東で採集された個体

ヒメヌマエビには大きく2つの体色パターンがある。
1つ目は白い横縞模様が入る個体である。おそらく、ヒメヌマエビと聞いて想像するのはこのような体色であると思われる。

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関東で採集された個体

もう一方の体色は、無地に正中線に一本線が入るタイプ。
上のより少し地味かもしれないが、関東ではこの体色のほうが多いと感じる。

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関東で採集された個体

本種は全体的に赤・茶褐色系になる個体が多いと感じる。
この熱帯性の種を彷彿させるような色彩から、本種の飼育を考える人は多いかもしれない。
実際、筆者は飼育を試みたことがあるが、この体色の維持は非常に難しかった

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徳之島で採集された雌の個体

白い帯や斑が多く見られる美しい個体。
筆者の経験上、徳之島の河川では特に個体数が多く、優占していることも多かった。

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沖縄島で採集された個体

赤が多いと書いたが、カラーバリエーションは豊富である。
しかし、このような青い色彩の個体はあまり見たことがない。

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東海地方で採集された個体

この個体は、非常に濃い黒色である。
濃茶褐色の個体はよく見かけるが、このような体色の個体も青系と同様にあまり見かけない。

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石垣島で採集された抱卵個体

地色が白色で、黒い斑模様が見られる個体。
おそらく、白色の帯の面積が広くなったような感じなのだろう。
八重山列島では、この個体のように額角長が第1触角柄部先端まで達するような、長い額角を持つ個体が多いように感じる。

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与那国島で採集された抱卵個体(同行者採集)

内地では、まず見ることがない体色である。
頭胸甲から腹節にかけて、地色が青緑から暗色にグラデーションを呈しており、思わず息をのんでしまうほど美しい個体だった。

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与那国島で採集された抱卵個体(同行者採集)

上の個体と同所的に採集された、縦縞タイプの個体。
このように、南西諸島だからと言って派手な色彩を呈する個体が多いわけではなく、むしろ、地味な縦縞タイプの個体のほうが多い

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関東で採集された幼体

熱帯性コエビ類の採集をしていると、10㎜程度の個体をよく見る。
このような小さな個体でも、写真のように体色がはっきりしている(他のヌマエビ類は、透明であることが多い)ため、同定は容易である。

 

上述した通り、コテラヒメヌマエビとの外部形態での識別が可能になるとの文研が発表され次第コテラヒメヌマエビのページを作成する予定です。
また、ヒメヌマエビ類は体色のバリエーションが豊富なので、ここに載せていないような体色の個体の撮影が終わり次第、更新していく予定です。

 

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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2014. ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本淡水性・汽水性甲殻類102種. 誠文堂新光社, 東京. 
・朝倉彰, 2011. エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類保全と生物学 1 .4 淡水産コエビ下目の生物地理 75-102. 生物研究社. 東京.
・Page, T. J., Cook, B. D., Rintelen, K. v. & Hughes, J. M., 2008. Evolutionary relationships of atyid shrimp imply both ancient Caribbean radiations and common marine dispersals. Journal of the North American Benthological Society, 27: 68-83.
・鈴木廣志, 佐藤正典, 1994. 淡水産のエビとカニ, 西日本新聞社, 福岡.