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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

コツノテナガエビ Macrobrachium latimanus

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コツノテナガエビ Macrobrachium latimanus  (Von Martens, 1868)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

神奈川県以南の南西諸島から記録されているテナガエビ類。
内地での記録は無効分散によるものとされ、個体数は極めて少ない
1990年頃に鹿児島県大隅半島で記録されているが、それ以降、九州本土からの記録はない。
また、南西諸島においても個体数は多くはないが、場所によっては優占していることもある。

体長は、最大で96mm程度と熱帯性のテナガエビの中では大型な種である。

生息環境は河川上流域で、瀬ではなく、淵にある岩の間隙で見られることが多い。
また、海外の文献によると標高1300m以上の水域で記録されたこともあるという。
そのため、鉗脚や額角は急流域に適応したような形態となっている。

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例えば、鉗脚は他のテナガエビ類と比べて太く短い。
特に腕節が著しく短くなっており、三角形のような形態となっている。

 

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本種の上縁歯数は、6~12歯(うち頭胸甲上に1~2歯)と、コンジンテナガエビとともに少ない部類に含まれる。
そのため、稚エビを同定する際には、この少ない鋸歯数が有効である。

額角の形状は木の葉型とされているが、個体によっては上方に緩く湾曲した形状になることもある(上写真)。

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稚エビの場合、コンジンテナガエビのように細いヤリ状である。
内地で見られるテナガエビの稚エビは、基本的に細長いヤリ状の額角を持つことはなく、この点は色彩的に類似し得るヒラテテナガエビとの区別に有効であると感じる。

体色は、幼体では下の写真のように透明感のある色彩を有していることが多いが、成体では全体的に濃い褐色で味気ないことが多い。

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左:コツノテナガエビ(幼体)、右:チュラテナガエビ

写真のように、幼体や若い個体には、腹節背面に正中線に対して垂直となるような横縞が複数見られる
この大きさの個体は、右のチュラテナガエビと類似するが、腹節背面の横縞が細く真っ直ぐである点で異なる。

 

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八重山列島で採集された個体

横から見るとわかりやすいが、額角は非常に広い木の葉状になっている。
"コツノ=小角"という和名が充てられているが、小さいというより太短い額角である。

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八重山列島で採集された個体

上の個体と類似して、若い個体の特徴である腹節背面の横縞が残っている。
また、はさみの先端部には、剛毛が疎らに生えるようだ。
側面から見ると、短い額角や鉗脚の腕節、歩脚の指節など、本種がいかに上流域に適応しているかを観察することができる。

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八重山列島で採集された抱卵個体

抱卵しているが、まだまだ若い個体であるため、腹節の横縞が鮮明である。
個人的な意見だが、このサイズの体色が最も美しいと感じる。

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八重山列島で採集された未成体

頭胸甲側面には、後方が下方に向く孤のような1曲線が出るのが特徴である。
しかし、このような特徴は他のテナガエビ類にも見られるため、他種との区別にはあまり有効でないかもしれない。

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本州で採集された幼体

体長1cm程度の個体であるが、若い個体の特徴である腹節の横縞は鮮明である。
ただし、撮影ケースに長く入れておくとあっという間に色が抜けるので注意。

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本州で採集された幼体

これは、採集してから長時間経過してから撮影した個体。
腹節の模様が不明瞭となり、同定は非常に困難である。

本州でこのような個体を採集したら、額角を入念に調べる必要がある。
鋸歯数が少なければ、本種かコンジンテナガエビに絞ることができるほか、上記2種の幼体は、ともに細長いヤリ状の額角であるので判別しやすい。
その後は、飼育して体色が鮮明になったときに識別するのが良い。

 

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参考文献一覧
・H Suzuki, N Tanigawa, T Nagatomo, E Tsuda, 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atydae and Palaemonidae) from Southern Kyushu and adjacent islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research 22; 55-64.
・丸山智朗, 2018. 相模湾および周辺海域流入河川において2016年8月以降に採集された熱帯性コエビ類5種の記録. 神奈川自然史資料 (39): 31-38.
・Robert A Irving, Terence P Dawson, Daisy Wowor, 2017. An amphidromic prawn, Macrobrachium latimanus (von Martens, 1868) (Decapoda: Palaemonidae), discovered on Pitcairn, a remote island in the southeastern Pacific Ocean. Journal of Crustacean Biology, Volume 37, Issue 4, Pages 503-506.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.