オニヌマエビ Atyopsis spinipes (Newport, 1847)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>オニヌマエビ属
南西諸島に生息している、体長75㎜を超える大型のヌマエビ類。
近年の研究で関東でも無効分散と考えられる個体が少数ながら記録されており、東限および北限は千葉県・神奈川県である。
沖縄島にも比較的多く生息しているが、八重山列島は特に個体数は多い。
第1,2胸脚の先端は非常に長い剛毛に覆われる。
上写真のように剛毛を網のように広げることで浮遊物を摂食している。
特に夜になると早瀬の転石の側面などに張り付き、剛毛を広げている様子を観察することができる。
この独特な生態の影響か、形態は水の抵抗を受けにくい形になっていると感じる。
額角歯式は 0+0/1-8 で短い。
体色は正中線に太い1本線、体側には縦縞が多く入るのが特徴。同じような生態を持つミナミオニヌマエビとは体色で容易に区別が可能である。
河川全域の早瀬環境に生息しており、ミナミオニヌマエビが優占し始める最上流域では個体数が少ないように感じる。
本種とミナミオニヌマエビは、生態的・形態的に類似しているため、同属と思うかもしれない。しかし、オニヌマエビは1属2種のオニヌマエビ属である。(ミナミオニヌマエビはミナミオニヌマエビ属)
この2属の決定的な違いは、第3顎脚指節の形状である。
ミナミオニヌマエビ属は先端に棘を持つが、先端に棘は無く剛毛に覆われる。
本属は、オニヌマエビ A.spinipes とアジアロックシュリンプ A.moluccensis から構成されており、互いに形態的に酷似している。
アジアロックシュリンプは日本には生息していないが、額角の長さと下縁歯数で識別可能であるという。
八重山列島で採集された個体
成体になる前はオレンジっぽい茶色であることが多い。
水の抵抗を受けにくそうな流線形のフォルムが独特である。
沖縄島で採集された個体
正中線上の太い1本線と、体側の複数の縦縞が明瞭である。
経験上、本種は色彩変異に富むが、この体色が最も普通である。
八重山列島で採集された個体
少し写真がブレているが、第6腹節に黒色の帯が出ている個体。
このような体色もしばしば見かけることがある。
八重山列島で採集された個体
大型の雄の個体は、第3胸脚が肥大化する。
オニヌマエビの雄は第3胸脚を用いて交尾前ガードをするらしい。
八重山列島で採集された雄の個体
体長65㎜程度のかなり大型の雄。これでも最大には10㎜届かない。
ここまで大きくなると、もはやヌマエビとは別の生物のようだ。
八重山列島で採集された個体
地色が明るい黄色で、正中線上の縦線が黒く縁どられている個体。
加えて、体側にはあたかもシュガースポットのような黒斑が出ており、申し訳ないがバナナにしか見えない。
実際、英語圏では別名として"Banana Shrimp"と呼ばれる*ことがある。(通常はBamboo Shrimpと呼ばれている)
*Googleで「Banana Shrimp aquarium」と検索した結果に基づく個人的な判断
八重山列島で採集された個体
体色が茶褐色というよりも、青みがかった灰色というような感じの個体。
このような体色の個体も少なくない。
余談だが、本種をケースに入れて撮影すると写真のように変な姿勢でじっとしてしまうことがあるため、ケースに入れないで適当に済ませてしまうことが多い。
八重山列島で採集された個体
特徴的な縦縞模様や正中線上のラインが明瞭な個体。
摂食時に使う第1・2胸脚はさみの剛毛束は折りたたむことができる。
奄美群島で採集された幼体
沖縄島では比較的安定的に生息していたが、奄美群島ではあまり個体数は多くない印象であった。加えて、幼体が多く大型個体を見ることができなかった。
奄美群島で採集された幼体
上の個体と同所的に採集された個体。体色は緑がかっており、幼体でも体色のバリエーションは見られるようだ。
関東で採集された個体
黒潮によって回遊してきたと思われる個体。この大きさでも特徴的な体色は鮮明である。
関東に回遊してくる個体数は少なく、なかなか見ることができない。
参考文献一覧
・丸山智朗, 2015. 三浦半島におけるオニヌマエビ(節足動物門:十脚目:ヌマエビ科)とコンジンテナガエビ(テナガエビ科)の記録. 神奈川自然誌資料(36): 41-44.
・丸山智朗, 2018. 相模湾および周辺海域流入河川において2016年8月以降に採集された熱帯性コエビ類5種の記録. 神奈川自然史資料 (39): 31-38.
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.