Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ツブテナガエビ Macrobrachium gracilirostre


ツブテナガエビ Macrobrachium gracilirostre  (Miers, 1875)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

口永良部島以南の南西諸島から記録されている美麗種。
レッドデータおきなわでは準絶滅危惧のカテゴリーに分類されている。
環境省レッドリストにおいて、絶滅危惧Ⅱ類に分類されているネッタイテナガエビよりも明らかに生息密度が低く、分布域全体として個体数は少ないように感じる。

体長は約100㎜と、熱帯性のテナガエビの中では大型である。
体色は、赤褐色と青緑色の細い縦縞が交互に続き、日本のエビとは思えないほど美しい色彩を有する。


また、腹節背面には1本の白色の横帯V字の模様があるのが特徴である。
この特徴からか、台湾の図鑑では別名「V字沼蝦」と書かれていることもある。

 

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額角歯式は 5-6+3-4/2で、額角は細く短い
ちなみに種小名は、gracili = 細い rostre = 額角の という意味で、本種を記載する際にはこの形質が注目されていたと考えられる。

額角の形状からわかるように、河川中・上流域の早瀬環境に生息しており、ネッタイテナガエビオニヌマエビと同所的に採集されることが多い。
経験則だが、ネッタイテナガエビよりも上流域または、流速のある場所を好むことが多いと感じる。

 

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八重山列島で採集された雌の個体

赤い縦縞が強く出ている個体。
このような派手な体色を持っているが、特別な毒などを保有しているわけではない。

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八重山列島で採集された個体

青緑色の縦縞が強く出ている個体。
他のテナガエビ属のように鉗脚が長く伸びない印象があるが、実際はかなり大きくなることがあるらしい。しかし立派な鉗脚を持つ個体はめったに見れず、この個体のような中途半端な大きさであることが多い。

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八重山列島で採集された抱卵個体

写真だとわかりづらいが、緑色の卵を抱えている。
理由はわからないが、ザラテテナガエビネッタイテナガエビなどの熱帯性のテナガエビ類は抱卵直後の卵色が緑であることが多いように感じる。


八重山列島で採集された雄の個体

採集してから時間が経過しているため、やや色が薄くなっている。
本種は早瀬環境に生息するテナガエビ類としてはかなり大型化する種であるが、普通観察できるのはこの程度の個体ばかりである。

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八重山列島で採集された抱卵個体

地色がくすんだ黄緑色の個体。
縦縞模様はすべての個体に共通しているが、地色や縞の色は若干の変異がある。


八重山列島で採集された雄の個体

体長30mm程度の若い個体。
同サイズのネッタイテナガエビと比べ、水量が多く、流速の速い環境を好む印象である。そのためか、酸欠にはめっぽう弱いように感じる。

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八重山列島で採集された個体(同行者採集)

全体的に赤みが強く出ている個体。
腹側背面の白色帯が明瞭である。
非常に美しい色彩を持つ本種も、透明な容器などに長時間放置するとかなり色が落ちてしまうため、きれいな色彩を維持したままの撮影は時間との勝負である。


八重山列島で採集された個体

採集してからあまり時間は経過していないものの、地色はかなり薄い。
同所的に採集された個体も同様に青緑色が弱かったため、環境によって色彩の雰囲気は変わるものと考えられる。

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八重山列島で採集された個体(同行者採集)

あまり大きくない個体であるが、特徴的な体色は明瞭である。
(黄色っぽく見えるのは、撮影時のライトの影響である)


八重山列島で採集された未成体

体長20mm未満の小型個体であるが、成体と同様に河川の急流部で採集された。
未成体では、腹節側面の縦縞が1本を除き、薄くなるようで、体側に1本線が入るマガタマテナガエビとの区別が難しい場合があるかもしれない。

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沖縄島で採集された幼体

体長20㎜未満の幼体であるが、赤い縦縞模様が明瞭で同定は容易である。
余談だが、この個体が筆者がはじめて採集した本種であるが、これ以降、沖縄島では本種を見ていない。

 

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参考文献一覧
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2014. ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本淡水性・汽水性甲殻類102種. 誠文堂新光社, 東京. 
・佐伯智史, 2017. ツブテナガエビ. 沖縄県環境部自然保護課(編), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編) —レッドデータおきなわ—. Pp. 327-328, 沖縄県環 境部自然保護課, 那覇市.
・H Suzuki, N Tanigawa, T Nagatomo, E Tsuda, 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atydae and Palaemonidae) from Southern Kyushu and adjacent islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research 22; 55-64.
・林春吉, 2007. 台灣淡水魚蝦生態大圖鑑(下). 天下遠見出版.