カスリテナガエビ Macrobrachium sp.

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カスリテナガエビ Macrobrachium sp.
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

日本に生息する未記載テナガエビ類2種のうちの1種である(もう1種はチュラテナガエビ)。
体長は50㎜程度と、チュラテナガエビに次いで小型な種である。

分布は複数の文献で沖縄島と石垣島となっているが、筆者は西表島でも採集したことがあるため、実際にはもっと広い範囲で生息していると考えられる。
また、国外ではフィリピンからの記録がある。

レッドデータおきなわでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、個体数は少ないと明記されている。
筆者の経験上、一部の水域での個体数は少なくないが、他の水域ではほとんど見ることができない。

本種は、ネッタイテナガエビ種群と呼ばれる種群に含まれており、その中でもカスリテナガエビネッタイテナガエビ、マガタマテナガエビ形態的に類似している。

しかし本種は生時の色彩において、他の2種のように頭胸甲側面に赤褐色の3本の縦縞を持たず、絣模様(金や白色の斑)を呈するという点で容易に識別できる
個人的には、むしろ体長が類似しているチュラテナガエビの方が混同しやすいと感じている。

体色は茶褐色であることが多いが、赤褐色や青緑色を呈することもあり、色彩変異に富む
経験則であるが、本種の色彩変化の速度は著しく、比較的短時間で体色が変化してしまうことが多い(下で紹介する)。

 

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額角歯式は 4-6+4-7/2-3 であり、上縁歯数は11~13歯である。
額角の形状は、ネッタイテナガエビやマガタマテナガエビと酷似しているが、本種とマガタマテナガエビは第1触角柄部先端に到達するという点から、ネッタイテナガエビよりも長くなる傾向があるとされる。

本種は、2003年に日本ではじめて記録され、石垣島の標本に基づき Macrobrachium lepidactyloides と同定されたが、佐伯ら(2018)によってM.lepidactyloides には「マガタマテナガエビ」和名が提唱され、カスリテナガエビは未記載種である可能性が高いという結果になった。

しかし台湾の図鑑には、頭胸甲側面に絣模様を有する点や雄の大鉗脚の形態が酷似している毛指沼蝦 M.jaroense という種が記述されている。
佐伯ら(2018)では、カスリテナガエビM.placidum  M.feunteuni をはじめとする複数のテナガエビ類と形態比較がされているものの、M.jaroenseとの比較は行われていない。
そのため、筆者はカスリテナガエビは未記載種ではなくM.jaroenseであると勝手に憶測している。ただし、そもそも台湾で記録されている毛指沼蝦が誤同定である可能性も否定できない。

 

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八重山列島で採集された雄の個体

この体色の個体を見ることが多いと感じる。
頭胸甲側面にはネッタイテナガエビなどにみられる3本線は見られず、なんとも言えないような複雑な模様を呈する。これが絣(かすり)模様らしい。

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八重山列島で採集された抱卵個体(同じ個体)

採集した当初は下の赤褐色だったが、薄暗い容器に入れて放置していたら上のような緑色に変化していた。
非常に美しい色彩であるが、雄の個体でこの色彩は見たことがない。

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八重山列島で採集された雌の個体

上の個体と同様に赤褐色と緑褐色が混じったような色彩である。
これは採集してすぐに撮影したものだが、網に入った瞬間はもう少し赤色が強かったはずなんだが...

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八重山列島で採集された雄の個体

大鉗脚が欠落している等の傷を負っていたが、かなり大型な個体。
わかりづらいが、小鉗脚の咬合面に剛毛が密生していることがわかる。

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八重山列島で採集された雌の個体

撮影の時間が長引き色彩が落ちてしまった個体。
頭胸甲側面に明瞭な絣模様は見れないが、金色の斑があるので同定は難しくない。

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八重山列島で採集された個体

体長25mm程度の個体だが、本種の最大体長が50㎜程度という点を考慮すると成体と言えるのかもしれない。
以前から気になっていたのだが、最大体長が小さいテナガエビ類の成長速度とコンジンテナガエビのような大型種のものにどのくらいの差異があるのだろうか。

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八重山列島で採集された個体

かなり小型な個体であるが、腹節背面の複数の白帯がはっきりしていてネッタイテナガエビ種群らしさが出ている。
この大きさでも生時であれば頭胸甲側面の模様で同定は容易。

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八重山列島で採集された幼体

上の個体と同様に幼体であるが、頭胸甲側面の黄色の斑や絣模様で同定が可能。
ただ、標本等にして色が抜けたらまともに同定できないだろう。

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八重山列島で採集された本種と思われる幼体

かなり小型な個体で同定が難しいが、頭胸甲側面の赤褐色のラインの入り方が上2個体と類似している点からカスリテナガエビと思われる。
正直なところ、この大きさの個体が生息域外で採集されても本種であると同定できる気がしない。

 

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参考文献一覧
・佐伯智史, 2017. カスリテナガエビ. 沖縄県環境部自然保護課(編), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編) —レッドデータおきなわ—. Pp. 313-314, 沖縄県環 境部自然保護課, 那覇市.
・佐伯智史・前田健・成瀬貫, 2018. 琉球列島産ネッタイテナガエビ種群3種 (甲殻亜門: 十脚目: コエビ下目: テナガエビ科)の分類と形態. Fauna Ryukyuana 44: 33–53.
・諸喜田茂充・藤田喜久・長井隆・伊藤茜・川原剛・野甫斉, 2003. 石垣島名蔵川マングローブ域と流入河川における甲殻類の生態分布と現存量. 亜熱帯総合研究所(編), マングローブに関する調査研究報告書. Pp.97–111, 亜熱帯総合研究所, 那覇.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.