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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

【超マイナー!?】汽水性スジエビ図鑑


お久しぶりです。ebina です!

本日は、あまり注目されていない(と思われる)
「汽水性スジエビに関して勉強していきたいと思います(^o^)
自分が勉強した際のメモ書き程度の説明ですが、誰かの参考になれば幸いです。

汽水性スジエビとは?

まず、汽水性スジエビの定義をはっきりさせましょう。

現在、最も新しく専門的な淡水・汽水エビ図鑑と言えば、
『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』です。

淡水性エビ類に関しては素晴らしい図鑑ですが、残念なことに、汽水に生息するスジエビ類は4種のみの掲載です。
そのため、汽水性スジエビを「この図鑑に掲載されている汽水に生息するスジエビ」と定義づけるのはイマイチです。
例えば、この図鑑に掲載されていないスジエビモドキは河川汽水域で採集できますし、逆に、図鑑に掲載されているユビナガスジエビは内湾でも普通に記録されており、海産種とも言えます。

そこで、参考にしたのが林健一先生の名著 「日本産エビ類の分類と生態」の連載です。
やや古い文献ですが、国内のスジエビ属エビ類が網羅されている数少ない文献なので、とても参考になります。

とりあえず、この文献で汽水に生息すると記述されているスジエビ類=汽水性スジエビとして扱うことにします。

また当時、別の属とされていたシラタエビも、現在はスジエビ属とする意見もあります。
このシラタエビも汽水域に生息するので、汽水性スジエビに含めましょう。

長くなりましたが、本稿では以下のエビを汽水性スジエビとすることとします。

汽水性スジエビの定義*

日本産エビ類の分類と生態(109)「日本産スジエビ属の種の検索」において、
汽水産または汽水~海産と記述された種(現在の有効種のみ) + シラタエビ

*個人の見解で、学術的根拠はありません
また、上記の文献には「オキスジエビ」という種が掲載されていますが、現在はイソスジエビのジュニアシノニムとされています。

汽水性スジエビの種類

では早速、汽水性スジエビ全種を紹介します~(^o^)
皆さまも汽水性スジエビをマスターしましょう💪

画像クリックで、写真を切り替えられます。


スジエビモドキ


  • 学名:P.serrifer*
  • 体長:3.6 cm
  • 分布:日本各地
  • 環境:河川感潮域~沿岸岩礁

*属名P.Palaemonの略

最も普通に見られる汽水性スジエビ
特に、内地の河川内の汽水域で優占していることが多い。
生息環境は、浅場の転石や岸壁、植物周りなど。
さらに、河川の影響を受けない浅海や磯場でも普通に見られる。

イソスジエビやユビナガスジエビと似ているが、スジ模様の数などで区別できる。


オガサワラコテナガエビ


  • 学名:P.ogasawaraensis
  • 体長:3.6 cm*
  • 分布:小笠原諸島父島
  • 環境:河川河口域
*豊田 (2019) を参考にしたが、実際には3 cm未満の個体が多い

小笠原父島の数河川だけに生息する固有種
肩書きはかっこいいが、要はスジエビモドキの小笠原verです(小声)。
額角が触角鱗の先端を超え、やや上方を向く点でスジエビモドキと異なりますが、そもそも分布からして間違えようがない。

日本の汽水性スジエビで唯一の環境省RDBの掲載種(絶滅危惧Ⅱ類)である。


ユビナガスジエビ


  • 学名:P.macrodactylus
  • 体長:3.5 cm程度*
  • 分布:日本各地
  • 環境:河川河口域~内湾
*頭胸甲長から推測した値

汽水域でよく見かける普通種で、スジエビモドキに次いで採集しやすい。
スジエビモドキと似るが、腹節に縞模様がなく、酷く地味な印象である.
ただし、個体によっては濃色になることがあり、なかなか魅力的である。
内湾の河口域や運河などで見られ、スジエビモドキよりも海水の影響が強い環境で見られることが多いように感じる。
なお、外海にそそぐ河川河口域では少ないように感じる。

ちなみに現在も、一部の文献で「フトユビスジエビと記述されており、和名が複数あるようだ。

残念ながら、海外では侵略的外来種として問題となっている。


シラタエビ


  • 学名:P.orientis
  • 体長:6 cm程度(?)
  • 分布:日本各地
  • 環境:河川河口域~干潟

他の種とは一線を画す 風変わりなエビ
実際、以前は別の属(トサカスジエビ属)に分類されていた。

他のスジエビ類よりも体形が細長く、前の属名通り、額角上縁基部が鶏冠状になるのが特徴である。
また、第1触角が青く、成熟雌の腹節下部には暗色斑が見られるという、なかなかの美麗種。

多くのエビ類とは異なり茹でてもあまり赤くならない


茹でた際の色味の違い
(上:ユビナガスジエビ、下:シラタエビ)

余談ですが、標準和名=シラエビです!
名前が似ている シラエビ=スジエビ類の販売名なので注意!


イソスジエビ


  • 学名:P.pacificus
  • 体長:4.5 cm程度*
  • 分布:日本各地
  • 環境:沿岸岩礁域・潮だまり
*頭胸甲長から推測した値

磯遊びで最も普通に観察できるエビ
汽水性スジエビに含んでいるが、淡水の影響を受けない磯場でしか見たことがない。

スジエビモドキと同所的に見られるが、腹節の横縞の本数が多く、明瞭であるため、比較的容易に区別ができる。
また、スジエビ類の中でも歩脚が太く頑丈なのが特徴である。

普通種だから~と軽視されがちだが、実はスジエビ類屈指の美麗種


アシナガスジエビ


  • 学名:P.ortmanni
  • 体長:5~6 cm
  • 分布:千葉県以南
  • 環境:沿岸岩礁域・浅海・漁港

大型で額角が長いスジエビで、外観や生息環境はイソスジエビと似ている。
しかし、経験上、タイドプールには出現せず、イソスジエビと同所的には見られない。
なお、河川に侵入することはほとんどないと考えられる。

最大の特徴は紫色に染まる長い額角で、イソスジエビと区別は意外と容易である。
また、和名の通り歩脚は細長く華奢な印象である。


スネナガエビ


  • 学名:P.debilis
  • 体長:3.5 cm
  • 分布:奄美大島以南
  • 環境:河川河口域~浅海

南西諸島で最も数が多い汽水性スジエビ
特にマングローブ林や河川河口域で夥しい数が見られるが、海岸にも出現することがある。

スジ模様はなく、透明な体に第6腹節付近に黒斑があるのが特徴である。
ただし、イッテンコテナガエビも同じような色彩で、かつ生息域が重なるため、誤同定しやすい。


イッテンコテナガエビ


  • 学名:P.concinnus
  • 体長:4.5 cm
  • 分布:南西諸島(稀に内地)
  • 環境:河川感潮域上端~浅海

南西諸島の河川に生息するスジエビ
また、近年、関東地方や長崎県などに無効分散と思われる個体が確認されている。

見た目がそっくりなスネナガエビよりも淡水の影響が強い環境で見られることが多いが、場所によっては同所的に採集される。
また、本種のほうが個体数が少なく、珍しい印象である。


ちなみに、この2種は第3腹節背面の黒斑の数で識別できる。
しかし、この点は意外と小さいので見落とさないように注意したい。

まとめ

以上、日本から記録されている汽水性スジエビ8種類でした。
おそらく多くの人が想像した通り、透明で地味な種が多かったと思います(;^ω^)

ですが、人気のないエビだからこそ、まだ知られていないことも多いと思います。
ですので、真摯に観察してみると面白い発見があるかもしれません!
この記事を読んで、汽水性スジエビに興味が出たのであれば、ぜひとも汽水性スジエビ採集にチャレンジしてみてください()

生き物屋の皆様、今後ともどうぞよろしくお願いしますm(__)m

▼日本のテナガエビ図鑑▼

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ebina-1.hatenablog.com

ー参考文献ー
  • De Grave, C.H.J.M. Fransen, 2011. Carideorum Catalogus: The Recent Species of the Dendrobranchiate, Stenopodidean, Procarididean and Caridean Shrimps (Crustacea: Decapoda). Zool. Med. Leiden 85.
  • De Grave, W. Ashelby, 2013. A re-appraisal of the systematic status of selected genera in Palaemoninae (Crustacea: Decapoda: Palaemonidae). Zootaxa 3734 (3): 331–344.
  • 林健一, 1999. 日本産エビ類の分類と生態 (108) テナガエビ科・テナガエビ亜科ーフウライテナガエビ属・シラタエビ属. 海洋と生物, 124. 389-393.
  • 林健一, 1999. 日本産エビ類の分類と生態 (109) テナガエビ科・テナガエビ亜科ーマイヒメエビ属・スジエビ属①. 海洋と生物, 125. 522-526.
  • 林健一, 2000. 日本産エビ類の分類と生態 (110) テナガエビ科・テナガエビ亜科ースジエビ属②. 海洋と生物, 126. 57-62.
  • 林健一, 2000. 日本産エビ類の分類と生態 (111) テナガエビ科・テナガエビ亜科ースジエビ属③. 海洋と生物, 127. 171-176.
  • 伊藤円, 渡邊精一, 村野正明, 1991. イソスジエビスジエビモドキの成長と繁殖. 日本水産学会誌, 57(7). 1229-1239.
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  • 丸山智朗, 2015. 伊豆半島河津川におけるイッテンコテナガエビ節足動物門: 十脚目: テナガエビ科)の初記録. 神奈川自然誌資料 (36): 45-48.
  • Mélanie Beguer, Michel Girardin, Philippe Boët, 2007. First record of the invasive oriental shrimp Palaemon macrodactylus Rathbun, 1902 in France (Gironde Estuary). Aquatic Invasions 2. 132-136.
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  • 諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
  • 豊田幸詞, 関慎太郎, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.