アミメスジエビ Palaemon parvibrachium Komai & Hanai, 2024
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>スジエビ属
2024年に記載されたスジエビ属の1種で、分布や生息環境はほとんどわかっていない。
2024年現在、神奈川県の1干潟でのみ記録されているが、標本数は少なく、本種の主産地であるかは不明である。
また、詳細な生息環境も同様に不明であるが、
これまでに発見されている個体は潮下帯上部のコアマモ場から得られている。
同所的にはユビナガスジエビやアシナガスジエビが見られるが、これらの種と比べて圧倒的に個体数が少ない。
本種の生態学的な知見は不足しているため、本種を採集した方がいたらぜひ学術雑誌に投稿していただきたい。
■ 外観・色彩これまで得られている標本の頭胸甲長は最大で5.8mm(体長は約20mm)とされるが、サンプル数が極めて少なく、正確な体サイズは不明である。
実際、標本は明瞭に未成体だと思われる個体が多く、最大体長が20mm以上になる可能性は高いだろう。
形態的にはスジエビモドキと類似するが、はさみ脚の形態が明瞭に異なるため識別は容易である。
具体的には、はさみに対して明瞭に小さな腕節を有する(0.5倍程度)のに対し、スジエビモドキは同程度(0.8倍程度)である。
本種の学名"parvibrachium"はparvi=小さい; brachium=前脚≒腕節という意味である。
色彩的特徴として、本種は多くのスジエビ類と同様に頭胸甲や腹節にスジ模様を有する。
しかし、本種のバンドパターンは網目のように入り組んで見えるなど、スジ模様からも同属他種と容易に見分けられる(上図)。
また、本種のスジ模様は赤褐色を呈することが多く、濃黒色を呈する個体は得られていない。
余談だが、標本数は少ないものの、このバンドパターンは多くの個体で共通していたため、この模様をもとに和名が提唱された。
■ 額角
額角は触覚鱗の先端に達する or 超える程度とされる。
額角歯式は3 + 12 / 3で、上縁歯数が15歯と浅海に出現する種としては多い。
また、上縁先端部の2歯は他の鋸歯とやや離れている。
なお、今後の調査によりレンジが広がることが想定される。
上述の通り、形態的にはスジエビモドキと類似するが、バンドパターンやはさみ脚の形状から容易に区別が可能である。
また、mtDNAの配列はナイカイスジエビ P.gravieriと最も高い相同性を示している。
~以下は筆者の憶測~
ナイカイスジエビはトロール漁で漁獲されており、生息環境は水深30-50m程度で、その影響かナイカイスジは赤みの強い色彩を呈する。
遺伝的に近縁だと推測される本種も浅海性のスジエビモドキ等と比べ、やや赤褐色が強い種であることから、本種の主な生息環境はこれまで得られている水深よりも深い可能性も考えられる。
これについては憶測でしかないので、今後の多角的な調査により、さらなる発見があることを祈っている。
繰り返しになるが、
本種の知見は不足しているので、本種を採集した方がいたらぜひ報文を...
神奈川県で採集された個体
他のスジエビ類と同様に腹節の接合部に明瞭で長いスジ模様が出るが、曲線的で側板中部あたりでスジ同士が融合し、網目のような複雑な模様を呈する。
また、イソスジエビやアシナガスジエビと同様に、腹節背面中部にも短いスジ模様を呈するが、これらの種よりも短く不明瞭で点列のようにも見える。
余談だが、この個体はホロタイプである。
神奈川県で採集された個体
筆者が初めて採集した個体で、体長は15mm未満の幼体である。
このサイズでも独特なスジ模様は形成されており、額角歯式もある程度完成しているようであった。
神奈川県で採集された個体
上の個体と同じ日に採集された幼体。
比較的、はさみ脚の腕節が長いものの、腕節と比べて十分に大きいはさみを有しているように見える。