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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ミゾレヌマエビ Caridina leucosticta

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ミゾレヌマエビ Caridina leucosticta  Stimpson, 1860
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属

太平洋側では福島県日本海側では秋田県を北限とするヌマエビ類で南西諸島まで広く分布している。
黒潮対馬海流の影響を強く受けるような環境では、個体数はかなり多く、筆者の経験上、最も採集しやすいコエビ類の1種である。

体長は最大34mmで、ヌマエビ類の中では一般的な大きさである。

生息環境は、河川中下流域の流れのゆるい場所を好み、そのような場所でおびただしい数が優占していることが多い。

本種は、ヌマエビ属のように第3腹節周辺が隆起するようなフォルムをしているため、慣れないうちはヌマエビやヌカエビとの識別が難しいかもしれない。
よく観察してみると、額角歯式や頭胸甲側面の模様で容易に区別ができる

 

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額角歯数は、上縁に12~30(うち頭胸甲上に1~4)、下縁に3~22歯である。
特に、上縁先端には他の鋸歯とは離れた1~3歯があるのが特徴である。

頭胸甲側面には、\ / のような模様が出ることが多く、複雑な模様を呈するヌマエビとは容易に区別することができる。

 

上記で本種の特徴として額角歯式と頭胸甲側面の模様について言及したが、これらの形質はすべて本種に酷似しているツノナガヌマエビとも重なり、これらの形質だけでミゾレヌマエビと同定することはできないとされる。(ツノナガヌマエビの分布域などの詳細は省略する)

一般的には額角が触角鱗をはるかに超えるか否かで区別をするが、額角が短いツノナガヌマエビも報告されていることため、厳密には額角の長さは同定形質とはなり得ない

現在のところ、両種を区別するには第6腹節腹面の肛門前棘の有無の確認が必要であり、ミゾレヌマエビは肛門前棘を持たない
雄の場合は第1腹肢の内肢突起の有無でも同定できるというが、筆者はこれを用いて同定した経験がない。
この2つの同定形質は実体顕微鏡などを使わないと確認できず、生時に確認することは難しい。

これらのことを考慮して、肛門前棘の有無を確認してない場合でも分布や額角の長さからミゾレヌマエビとして紹介する。 

 

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関東地方で採集された雌の個体

成熟した雌の個体は濃色になることが多い
色彩は個体差が非常に多く、同所的に透明な個体も採集されている。

 

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関東地方で採集された雌の個体

この個体は、正中線に黄色線が入る。このような特徴は類似するヌマエビやヌカエビには見られない特徴であるため、識別に有効である。
また、頭胸甲側面の斜横線(特に / 模様)も同定に有効である。

 

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東海地方で採集された雄の個体

基本的に雄の色彩変異は少なく、写真のように薄いことが多い。
頭胸甲側面の斜横線が本種やツノナガヌマエビによく見られる特徴である。

 

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関東地方で採集された個体

このような薄っすらと青みを帯びた個体も多い。
本種の体色変異は、生息環境および水の透明度が大きく関係しているように感じる。
経験則だが、増水した河川では黒や赤などの濃色の個体が多い印象である。

 

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北陸地方産の個体

大型の雌の個体は体色が濃い傾向にある
個人的な憶測だが、本種の海洋を介した分散力は、浮遊幼生期の至適塩濃度から弱いと考えられる。そのため、日本海側の個体群と太平洋側の個体群とでは何かしらの差異があるかもしれない。

 

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関東地方産の雌の個体

上の個体と非常に類似した色彩である。
このような体色は雄の個体では見ることができない。
また、額角先端部に他とは離れた数本の鋸歯が並ぶ点は本種(とツノナガヌマエビ)の最大の特徴であり、同定の際には非常に有効である。

 

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関東地方で採集された抱卵個体

撮影時のストレスで、体色が白く濁った個体。
卵は他のコエビ類同様、少し緑がかっているように感じる。

 

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石垣島で採集された雌の個体

この個体はマングローブで採集されたため、海水の影響を強くうける環境でも抱卵することができるらしい。
本種に似たマングローブヌマエビとは上縁歯の配列で容易に識別することができる。

 

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和歌山県産の個体

鰓や胸脚に明瞭な山吹色が見られ、明らかに色彩変異と考えられる個体。
本種は河川で大量に採集できることもあり、このような変異個体と遭遇する確率が多いようにも感じる。

 

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沖縄島で採集された抱卵個体

正直なところ、ツノナガヌマエビの可能性も否定できない個体。
額角の長さのみで同定するならミゾレヌマエビとなるが、現在では額角の短いツノナガヌマエビも発見されていることから、このような個体を容易に同定することができなくなっている。

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奄美群島で採集された雌の個体

内地とは異なり、同所的にツノナガヌマエビが採集されるため、識別が難しいと感じる。
しかし、同所的に見られる場合、本種の方が体色の透明感を欠くことが多いため、見分けることができると感じる。

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奄美群島で採集された雌の個体

南西諸島では、本種よりもツノナガヌマエビの個体数が多くなる印象であるが、奄美では本種の個体数は比較的多い。

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関東地方で採集された額角変異個体

先天的な額角異常を持つ個体と推測される。
上述した色彩変異個体同様に、このような個体も稀ながら見ることある。
この個体は、頭胸甲側面の斜横線から同定した。

 

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参考文献

今井正, 大貫貴清, 鈴木廣志, 2015. 高知県室戸半島と足摺半島における淡水産コエビ類の分布. 日本生物地理学会会報, 70: 159–171.
・丸山智朗, 乾直人, 池澤広美, 2018. 温泉水の流入する釜戸下流域(福島県いわき市)における十脚甲殻類の記録. 茨城県自然博物館研究報告(21): 135-142.
・丸山智朗, 2016. 本州日本海側における両側回遊性コエビ類の分布について. Cancer 25: 55-60.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.