Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ツノナガヌマエビ Caridina grandirostris

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ツノナガヌマエビ Caridina grandirostris  Stimpson, 1860
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属

高知県以南の南西諸島で記録されているヌマエビ類。
2001年には千葉県から記録されているが、近年熱帯性コエビ類が関東から続々と記録され続けている中、本種の記録が出ていないことから極めてであると考えられる。

ちなみに、鹿児島県においても ミゾレヌマエビの中に混ざる確率は1%程度で、高知県では鹿児島よりもさらに少ないと考察されている。

一方で、南西諸島ではトゲナシヌマエビと並んで個体数が多い普通種である。
(筆者がミゾレヌマエビと混同している可能性は大いにあるが、それを差し引いても個体数は多い)

 

余談だが、国内にはナガツノヌマエビという種が存在するが、国内では久米島のみで記録されている別の種であるため、勘違いしないように注意したい。

 

体長は、最大で35mm程度とヌマエビ類としては一般的な大きさである。

本種は形態的および生態的にミゾレヌマエビと非常に酷似しており、両種の区別は非常に難しい。詳細はミゾレヌマエビを参照。

基本的に、生息環境はミゾレヌマエビと同様に河川中・下流域の流れのゆるい環境を好むが、筆者は純淡水性ヌマエビ類が生息しているような環境でも本種を採集したことがあり、詳細は不明である。

形態もミゾレヌマエビと同様に、第3腹節が隆起した形をしている。
また、頭胸甲側面に\ / のような模様が出る点も類似する。

 

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額角歯式は、上縁に14-22(うち1-3は頭胸甲上)下縁に8-21である。
また、ミゾレヌマエビと同様に先端部に1-2本の他とは離れた鋸歯を持つ。
筆者の浅い経験上、ミゾレヌマエビよりも鋸歯が並ばない範囲が長い点からある程度の区別ができると感じる。

また、和名・学名からもわかるように、額角が非常に長いのが特徴である。

しかし、高知県から記録された個体は額角長 / 頭胸甲長、および額角が第1触角柄部を超える割合がミゾレヌマエビの割合の範囲内であることがわかっている。
つまり、ミゾレヌマエビと同程度の短い額角を持つ個体が存在するため、両種の識別法として額角長は厳密には有効でない。
そのため、形態に基づく同定は肛門前棘の有無によって行うべきであるとされる。

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肛門前棘は、大型個体であれば接写に特化したデジカメでも確認できるが、小型個体では実体顕微鏡等を用いないと確認が難しい。

 

今回は、肛門前棘の有無を確認してない場合でも分布や額角の長さをもとに同定した個体をツノナガヌマエビとして紹介する。 

 

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沖縄島で採集された雄の個体

額角が非常に長く、本種らしい個体。
ミゾレヌマエビと同様に頭胸甲側面に斜横線が見られる。

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沖縄島で採集された雄の個体

上の個体と比べて額角が明らかに短く、誤同定の可能性も高い。
ただし、同所的に額角の長い個体が多く採集されていることに加え、額角上縁歯の配列から筆者はツノナガヌマエビと同定した。

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沖縄島で採集された抱卵個体

ミゾレヌマエビと同様に、雌の個体は濃色で、カラーバリエーションが豊富である。
本種は、第3腹節背面後部の横帯が明瞭である印象がある。

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沖縄島で採集された抱卵個体

正中線上に黄色線が見られる個体。
他のコエビ類同様、腹節側面腹側には独特な模様が見られ、卵を保護するうえで何らかの利点があると推測される。

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沖縄島で採集された抱卵個体

全体的に模様がはっきりとせず、地味な個体。
上の個体と同所的に採集し、比較的額角が長いという点から本種と同定したが、内地で採集したら確実にミゾレヌマエビと同定するだろう。

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沖縄島で採集された抱卵個体

腹節背面の白色帯が非常に美しい個体。
加えて額角も白色斑がモザイク状に見られ、一層惹かれる。
個人的な意見であるが、ミゾレヌマエビよりも本種の方が美しい色彩を呈するという印象がある。

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宮古島で採集された抱卵個体

沖縄島の個体と同様に、腹節背面の帯が明瞭である。
この個体は額角が非常に長く、上方への湾曲が顕著である。

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宮古島で採集された雄の個体

この個体は肛門前棘があることを確認した。
見ての通り、額角が長いミゾレヌマエビと酷似している
腹節背面の横帯の雰囲気が違うような...程度にしか感じない。

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八重山諸島で採集された雄の個体

雄の個体にしては、全体的に暗っぽい体色である。
具体的な表現ができないが、筆者はこのような体色のミゾレヌマエビは見たことがない。

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八重山諸島で採集された抱卵個体

この個体は肛門前棘を有することを確認した。
額角の長さはミゾレヌマエビのものと同程度であるが、腹節背面の模様が明らかに異なるのである程度の同定は可能である。
それにしても、背面の白色帯がここまで連続的に明瞭に現れる個体は滅多にみられない。

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奄美群島で採集された雌の個体

肛門前棘の有無を確認していないため、誤同定の可能性も否定できない。
しかし、額角の長さや腹節背面の模様の雰囲気から本種であると考えられる。

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奄美群島で採集された雄の個体

肛門前棘の有無を確認していないが、額角の長さから本種と考えられる。
沖縄島ではミゾレヌマエビよりも本種の方が個体数が多い印象であるが、奄美群島では本種の方が少ないと感じることが多かった。

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奄美群島で採集された雄の個体

肛門前棘の有無を確認していないため、誤同定である可能性は否定できない。
ただし、額角上縁の鋸歯を持たない部分がかなり広く、本種であると推測される。
また、同所的に採集されるミゾレヌマエビよりも体色に透明感があることが多いため、現地での見分けは難しくはないと感じた。

 

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参考文献一覧

今井正, 大貫貴清, 鈴木廣志, 2015. 高知県室戸半島と足摺半島における淡水産コエビ類の分布. 日本生物地理学会会報, 70. 159-171.
今井正, 大貫貴清, 鈴木廣志, 2017. 大隅半島における淡水産コエビ類の分布. Nature of Kagoshima, 43. 297-303.
・丸山智朗, 2018. 相模湾および周辺海域において2016年8月以降に採集された熱帯性コエビ類5種の記録. 神奈川自然史資料 (39): 31-38.
・佐藤文保, 1995. 久米島の小動物. 自然の概況 - 沖縄県立博物館 (編), 久米島総合調査報告書 論文編. 26-64.
・鈴木廣志, 佐藤正典, 1994. かごしま自然ガイド 淡水産のエビとカニ. 西日本新聞社. 福岡.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑. 緑書房. 東京.