Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

イッテンコテナガエビ Palaemon concinnus


イッテンコテナガエビ Palaemon concinnus Dana, 1852
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>スジエビ

神奈川県以南の南西諸島から記録されているスジエビ類。
内地における正式な記録は、神奈川県、静岡県および長崎県のみで、記録数も少なく極めて稀である。
南西諸島においては、沖縄島以南であれば個体数は少なくないが、形態的に類似するスネナガエビよりも圧倒的に少ない。

最大体長は約45mmで、スジエビ類としては一般的な大きさである。

体色は半透明で、和名「イッテン=1つの点」にあるように、第6腹節に明瞭な黒色斑が1つ見られるのが特徴である。
ただし、この斑はスネナガエビにも見られるため、間違えやすい。

実は、側面から見ると黒斑は1つであるが、第6腹節腹板にも黒斑が見られるため、角度によっては2つの黒斑が見られる(下写真)。

なお、スネナガエビの腹板には黒斑は見られないため、本種よりも"イッテン"という和名が相応しいような...

余談だが、和名に「テナガエビ」とつくが、本種はスジエビPalaemonに分類される。
これは、以前、Palaemonに「コテナガエビ属」という和名が充てられていた名残であると考えられ、小笠原固有のスジエビ類、オガサワラコテナガエビにも見られる。

生息環境は河川下流域で、特に感潮域上端周辺の流れの緩い環境で見られることが多い。
余談だが、南西諸島では下流域がほとんどない小河川も多く、そのような河川ではあまり見られない。


額角長は長く、先端部は上方に湾曲する。
また、額角歯式は 1+3-6+1/3-7で、先端部に他とは離れた1歯を持つのが特徴である。
しかし、同属のスネナガエビも同様に長い額角や、先端部に他と離れた1歯を持ち、体色や模様も類似する。
また、スネナガエビの方が海水の影響を強く受ける環境を好むが、しばしば同所的に採集されることもあるため、誤同定に注意が必要である。

本種とスネナガエビを見分ける上で、2つ有効な形質がある。
1つ目は、額角下縁が褐色に染まらない点である。
上の写真に示したように、本種の額角は全体が透明であるが、スネナガエビの額角下縁は褐色に染まることが多いため、歯式を見ずに区別が可能である。
ただし、上写真の個体のように、本種の額角も拡大すると、わずかに褐色の色素胞が見られることがある。


2つ目は、第3腹節背面に見られる黒色斑の数である。
先述したように、本種とスネナガエビの第6腹節周辺には、明瞭な1つの黒色斑が見られるのが特徴であるが、それとは別に腹節背面に小さな暗色斑見られる。
本種の場合、正中線上に1つ見られるが、スネナガエビでは正中線を跨いで2つ見られるため、この点を見れば容易に同定できるとされる。


石垣島で採集された雌の個体

この個体は、マングローブ域でスネナガエビと同所的に採集された。
上述の第3腹節背面の黒色の1小斑が見えるため、本種と容易に判断することができる。


沖縄島で採集された雄(?)の個体

基本的に、体色はこのような褐色がかった半透明で安定している。
また、ザラテテナガエビのように、第3胸脚基部は暗色に染まるようだ。


沖縄島で採集された個体

この個体は、上の個体よりも額角長が短い。
本種と類似するスネナガエビは、基本的に触角鱗を大きく超える長い額角を有するため、このような個体は区別が容易である。
また、上述したように、本種の額角下縁部は褐色に染まらないため、慣れれば区別は容易である。


沖縄島で採集された個体

河川感潮域上端で採集された個体。
基本的にスネナガエビよりも上流部で採集されることが多いが、スネナガエビが優占するマングローブ林内の水路にも出現することもある。
筆者の浅い経験上、はさみ脚の節々が橙色になる点でも見分けられるように感じた。


奄美群島で採集された個体

沖縄島では安定した個体数がいるが、奄美群島では1個体しか確認することができず、珍しい印象であった。
南方種にとって鹿児島と沖縄の差は大きいのかもしれない...


関東で採集された未成体(同行者採集)

記録は少ないが、内地でもごく稀に採集される。
本種は、この個体のように黒斑に接した白斑が見られることがある。
個人的な意見として、本種を含め汽水性エビ類は分散能力が低い印象がある。
しかし、本種は13ゾエア期まであるため(スネナガエビは7ゾエア期、オオテナガエビは9ゾエア期)、関東まで来遊することができるとされる。


関東で採集された個体

関東産としてはかなり大型の個体。
水温から越冬しているとは考えにくいため、この年に着底した個体であると考えられ、本種の成長の速さがうかがえる。
私事ですが、漸く関東で採集することができました...

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文献一覧

  • 上田常一, 1970. 日本淡水エビ類の研究. 園山書店, 松江.
  • 丸山智朗, 2015. 伊豆半島河津川におけるイッテンコテナガエビ節足動物門: 十脚目: テナガエビ科)の初記録. 神奈川自然誌資料 (36): 45-48.
  • 丸山智朗, 2017. 神奈川県および伊豆半島の河川から採集された注目すべき熱帯性コエビ類5種. 神奈川自然史資料 (38): 29 - 35.
  • 長崎市, 2012. 水生生物(剣尾類・十脚甲殻類)イッテンコテナガエビ. 長崎市, 長崎市レッドデータブック改訂版, pp. 124. 長崎市, 長崎.
  • 諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
  • 豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.