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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

オオテナガエビ Macrobrachium grandimanus

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オオテナガエビ Macrobrachium grandimanus  (Randall, 1840)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

種子島以南の南西諸島から記録されているテナガエビ類。
鹿児島県の離島における生息数は把握していないが、沖縄諸島八重山諸島における個体数は比較的多い

生息環境は、河川の下流で、流れがほとんどない水域で優占していることが多い。
また、経験上、海水の影響を強く受ける環境のほうが個体数が多い印象である。

和名から多くの人が大型のテナガエビと思うかもしれないが、実際はテナガエビM.nipponenseよりも一回り小さく体長は最大で60mm程度である。

和名の由来は、雄の大鉗脚がシオマネキのように大型になる点であると推測される。
この鉗脚の掌部には軟毛が密生するが、用途は不明である。

大鉗脚のはさみの咬合面には明瞭な2つの棘と、細かい鋸歯が均等に整列している。

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雄の小鉗脚の可動指および不動指は非常に細く、咬合面側に湾曲する。
成体になると咬合面を中心に剛毛が疎生する。

 

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額角歯式は 3-4+9-11/3-4 と、上縁歯数が多い部類である。
余談だが、豊田(2019)は、上縁には14~17本の歯があるとしているが、これは原記載に従い、ハワイの個体群のものを記述していると考えられる(後述)。

国内のテナガエビ類のうち、上縁歯数が多い(通常12以上)ものは、本種とヒラアシテナガエビが含まれる。
この2種は生息環境や形態がやや類似するため、慣れないうちは額角の形状から識別すると誤同定が少ないと感じる。
ヒラアシテナガエビは、比較的幅の広い木の葉状の額角を持つのに対し、本種は比較的細いヤリ状の額角先端が上方を向くことが多いため、個人的に容易に区別ができると感じる。

2001年に、台湾から形態的に酷似している近縁種, M.shaoi が記録されている
このことに関して、台湾の図鑑に掲載されているオオテナガエビ(のような種)にはM.shaoi が充てられており、M.grandimanus は掲載されていないことから、台湾に生息しているオオテナガエビ類はすべてM.shaoi に該当すると推測される。
ちなみに、M.grandimanus1840年ハワイ諸島で採集された標本もとに記載されているが、琉球の個体群はハワイの個体群よりも上縁歯数が少ないと報告されている。

余談だが、額角上縁歯数や生息域、大鉗脚が大型化するという点でヒラアシテナガエビと類似しているが、系統的にはかなり離れているという。

 

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沖縄島で採集された雄

かなり大型な個体で、大鉗脚が体長よりも大きくなっている。
腹節背面には白色の独特な模様があり、美しい。
色彩も美しく形態的にもインパクトがあるテナガエビ類であるが、個人的に知名度が低いと感じる。

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沖縄島で採集された雄の個体

大鉗脚指節は地色と黒色のまだら模様になっており、掌部は赤褐色の2本線がでる。
紹介し忘れたが、本種の腹節側面には、マガタマテナガエビのように赤色の1本線が入るのが特徴となっている。(マガタマよりも不明瞭であることが多いように感じる)

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沖縄島で採集された雄の個体

ここまで大きい個体は極めて稀である。
頭胸甲側面に3本の斜横線が入るのが特徴だが、鉗脚が大きすぎて見えない...

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沖縄島で採集された抱卵個体

雌の個体としてはかなり鉗脚が大きい個体。
多くの熱帯性テナガエビ類と同様に、卵の色は緑色である。また、雄の個体とは異なり、腹節腹側の卵を覆っている部分には模様が出ており、卵を保護する点で何らかの利点があるのかもしれない。

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石垣島で採集された雌の個体

この個体の額角は、細く明瞭なヤリ状である。
このような細いヤリ状額角は、ザラテテナガエビやスベスベテナガエビで見られるが、これらのエビは主に汽水域や下流域の流れの緩い環境を好むという共通点がある。
筆者の憶測だが、本種らの生息環境は、ヤイトハタフエダイ類など強力な捕食者が多いため、対捕食者戦略として額角が発達したと考えるのが妥当だろう。

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石垣島で採集された雄の未成体

まだ、鉗脚が発達していない雄の個体。
このような個体は、ミナミテナガエビと酷似する
識別法としては、以下の3つがあげられる。
1.頭胸甲側面の3本の斜横線のうち、中央の線が他の線と並行ではなく「 \ / \ 」のような模様になる点
2.腹節側面に赤褐色の1本線が出る点
3.額角が細長く、上方に湾曲する点

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沖縄島で採集された幼体

上の個体と同様に、ミナミテナガエビと酷似している。
特にこの大きさの個体は、鉗脚の節々に黄斑が見られるという点においても類似するため、非常に厄介である。
南西諸島において、個体数が多い本種が内地からの記録がないのは、分散能力のほかに、幼体の同定が困難であることが考えられる。

 

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参考文献一覧
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・吉郷英範, 2002. 日本のテナガエビ属(甲殻類:十脚類:テナガエビ科). 比婆科学 206: 1-17.
・周名泰, 高瑞卿, 張瑞宗, 廖竣, 2020. 台灣淡水及河口魚蝦圖鑑. 台灣自然圖鑑 048. 晨星出版社.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・Liu, M. Y., Cai. & Tzeng, C.-S., 2007. Molecular systematics of the freshwater prawn genus Macrobrachium Bate, 1868(Crustcea: Decapoda: Palaemonidae) inferred from mtDNA sequences, with emphasis on east Asian species. Zoological Studies, 46: 272-289.