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エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

ミナミテナガエビ Macrobrachium formosense

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ミナミテナガエビ Macrobrachium formosense  Bate, 1868
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

南西諸島から福島県福井県まで広く分布しているテナガエビ類。
ヒラテテナガエビと異なり、本州だけでなく八重山でも個体数が多い印象。

体長は最大で100㎜と比較的大型である。

本種はテナガエビと形態的に似ているが、テナガエビよりも生息域が広く河川下流域から中上流域まで見られることが多い。
生息環境も様々であるが、基本的に流れの緩い環境で多く見られるように感じる。 

また、テナガエビよりも額角や胸脚指節が太短いことからも、幾分か上流域に適応した形態となっていると考えられる。

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額角歯式は 2-3+7-10/2-4 で、額角は典型的な木の葉型である。
額角先端は触角鱗に達しないことが多いが、未成体では比較的長くなる傾向がある。

頭胸甲側面に3本の斜横線が入るが、未成体では色が鮮明で成長するにつれて薄くなっていくように感じる。
成体の斜横線は、色彩的には不明瞭であるが、「m」の模様が縁どられることが多い。

 

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関東で採集された雄の個体

上記で述べたように、頭胸甲側面の「m」模様の色は少し薄い
ただ、テナガエビに比べて太くまっすぐであり明瞭である。

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関東で採集された個体

上の個体と比べ「m」模様の色彩は鮮明である。
模様だけでテナガエビとの区別ができないときは、額角を確認するとよい。
筆者はあまり使わないが、はさみの剛毛が比較的少ない点でも同定可能である。

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関東で採集された雌の個体

経験則だが、本種は比較的色彩変異が多いように感じる。
基本的に成体雄は一番最初の個体のような色彩であるが、未成体や雌では様々な色が見られる。
透明感のある色彩に、頭胸甲側面の3本の赤い斜横線という特徴のみで同定してザラテテナガエビと誤同定しないように注意したい。


関東で採集された雌の個体

個人的にはこの体色が最も基本的なものであると感じる。

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関東で採集された個体

ちゃんとケースに入れて撮影しなかったが、明瞭な黄色の個体もいる。
この固体は頭胸甲側面の模様が見えないため、胸脚指節長から同定した。

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沖縄島で採集された個体

テナガエビとは異なり、本種は南西諸島にも分布する。
経験則だが、南西諸島産の個体は額角が鋭い印象があり、ザラテテナガエビとの区別が難しいことがある。

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石垣島で採集された個体

上述したように、ヒラテテナガエビとは異なり、八重山列島においても個体数は少なくない
しかし、八重山列島ではコンジンテナガエビザラテテナガエビの個体数が増加するため、相対的に本種の個体数は少なく感じる。

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沖縄島で採集された個体

この個体はマングローブ林内の水路で採集された。
テナガエビよりも上流部に生息するという印象が強いが、関東であっても河口域で見られることもあるため、塩分耐性はかなり強いと考えられる。

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奄美群島で採集された個体

河川中流域で採集された個体。
比較的大きい個体であったが、幼体にしばしば見られる鉗脚の節々に見られる橙の斑が明瞭に残っていた。

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関東で採集された幼体

体長20~30㎜未満の個体でよくみられるが、鉗脚に橙や黄色の色彩が見られる。
上記にあるように幼体は頭胸甲側面の斜横線が鮮明である。

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関東で採集された幼体

上の個体と同様に鉗脚に黄色の斑が見られる。
この大きさの個体では額角は細長いことが多く、テナガエビとの識別には、頭胸甲側面の斜横線が有効である。

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西表島で採集された幼体

関東の個体と同様に鉗脚の節に黄色の斑が見られるが、頭胸甲側面の3本の斜横線が細い印象である。
南西諸島ではオオテナガエビの幼体と本種の幼体の区別が難しいと感じる。

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奄美群島で採集された白化個体

明瞭に筋肉が白化している個体。
経験上、白化個体は同一水域に複数個体見られることが多いが、この水域ではこの個体以外は白化個体は確認できなかった。

 

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参考文献一覧

・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・豊田幸詞, 関慎太郎, 2014. ネイチャーウォッチングガイドブック 日本の淡水性エビ・カニ 日本淡水性・汽水性甲殻類102種. 誠文堂新光社, 東京. 
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
・丸山智朗, 乾直人, 池澤広美, 2018. 温泉水の流入する釜戸下流域(福島県いわき市)における十脚甲殻類の記録. 茨城県自然博物館研究報告(21): 135-142.