スジエビ Cタイプ Palaemon sp.
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>スジエビ属
現在、奄美大島の1河川のみで記録されているスジエビの隠蔽種とされる。
当初は、島内の3河川ならびに加計呂麻島の1河川で記録されていたが、近年の調査では奄美大島の1河川を除き、生息が確認されていない。
また、生息流程は非常に狭く、河川汽水域から中流域の短い区間に限られている。
生息環境は、おそらくBタイプと同様な環境を好むと考えられる。
生息域における個体数は決して多いとは言えず、狭い範囲で少々見られる程度である。
そのため、後述する生息環境の状況も合わせると、絶滅のリスクが非常に高いと言える。
頭胸甲側面の逆ハの字の模様や、腹節に暗色の横縞模様が見られる点において、AタイプおよびBタイプに類似する。
またBタイプと同様に、縞模様は明瞭で直線的である。
ただし、他のタイプと同様に縞模様の明瞭さには個体差があると考えられる。
また、雌の個体に関しては、腹節側板下部にも明瞭な横縞が見られる。
この模様は、関東周辺で見られるBタイプにはあまり見られない。
額角長や歯式に関しては、未記載であるため詳細な情報はない。
おおむね他2タイプと同様な形状であると考えられる。
スジエビ全体の詳細に関しては、Aタイプ、Bタイプの記述を確認していただきたい。
奄美大島産のスジエビは、張ら(2018a)による核DNAによる分析ではAタイプに含まれていたが、張ら(2018b)によるミトコンドリアDNAの解析ではAタイプとは独立したクレードを形成したため、新たにCタイプとして定義された。
また、武田・池田(2022)による研究では、核DNAにおいてもA,Bタイプとも分かれていることが示されたほか、地理的に隔離された固有のグループであることが示唆されている。
■ 生息地の現状
現在、本種の生息する嘉徳川の河口域、
嘉徳海岸が海岸浸食対策工事で開発されつつある。
今回の工事区間は生息域と重ならないが、両側回遊種である本種にとって、河口域=嘉徳海岸は浮遊幼生の生育場所として最も重要であると考えられる。
今回の開発が本種のゾエア幼生に与える影響は明らかにされていないが、工事の期間と産卵期が重なっているため、悪影響を及ぼす可能性は極めて高いと考えられる。
余談にはなるが、スジエビCタイプが生息する嘉徳川は、奄美大島で唯一砂防ダムがない河川で、原生的な自然が残されている。
そこには、本種だけでなく、奄美大島でのみ生息する両側回遊型のリュウキュウアユなどの希少な生物が数多く生息している。
そして、開発されつつある嘉徳海岸は、「ジュラシックビーチ」と呼ばれており、手付かずの自然が残された奄美最後の海岸として知られている。
このような太古より受け継がれてきた尊い自然が改変されることについては、個人的に非常に残念である。
工事現場の入り口と#SAVE KATOKUを掲げた看板
一方で、2022年2月25日には、日本自然保護協会(NACS-J)が近年の学術研究に基づき、鹿児島県知事に対して、
「奄美大島・嘉徳川に生息するスジエビをはじめとした生物に関する河口域の科学的モニタリング調査を求める要望書」を提出した。
大まかな内容は、工事内容が生態系に影響を及ぼさないようにするために、モニタリング調査を行うというものである。
このモニタリング調査によって、工事による本種への悪影響が取り除かれるを望む。
採集された抱卵個体
頭胸甲側面の模様がやや不明瞭な個体だったが、腹節側面下部の縞模様ははっきりとしていた。
他の2タイプ雌でもここに縞模様は出るが、生息地によるものなのか、本種のものが最も明瞭で美しいと感じる。
採集された抱卵個体
全体的に縞模様が明瞭な個体。
上述したが、縞模様の雰囲気はBタイプと似ていると感じた。
採集された抱卵個体
今回の採集は2022年の3月に実施されたが、今回採集された雌はすべて抱卵個体であった。
他2タイプと同様に、本種の産卵期は春頃と推測される。
採集された雄の個体
撮影が長引いた影響なのか、縞模様が不明瞭な個体。
今回観察した雄は、縞模様が薄い個体ばかりだった。
採集された雄の個体
今回掲載している個体はすべて同じ河川で採集された個体であるため、体色や模様の雰囲気が同様である。
いつか、別の河川にいる本種も見てみたいものだ。
観察された抱卵個体
観察ケース内で見るよりも、縞模様や金色の斑が明瞭で非常に美しい。
この美しいエビがこれからもずっと見られる奄美大島・嘉徳川であってほしい。