マガタマテナガエビ Macrobrachium lepidactyloides (De Man, 1892)
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ属
沖縄島および西表島の一部の河川から記録されている。
沖縄県版レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に分類されており、記録のある河川でも個体数は少なく、極めて稀である。
生息環境は河川中流域の早瀬で、特に流れの強い環境を好む印象である。
同所的には、ネッタイテナガエビやツブテナガエビなどが見られる。
体長は75mmに達するとされ、本邦産ネッタイテナガエビ種群(後述)の中では最も大型である。
成体の体色は緑褐色で、ネッタイテナガエビと同様に第3腹節背面には白色の横帯が見られる。
また、頭胸甲側面に3本の赤褐色の縦線が入り、その最上部の線が体側まで続くのが最大の特徴である。
余談だが、成体雌は迷彩柄のような色彩を呈する個体もおり、お目にかかりたいものだ。
■ はさみ脚
成体雄の大鉗脚のはさみは、掌部の幅が広く、指節長が長い。
この勾玉のような大鉗脚が、和名の由来となっている。
小鉗脚指節は湾曲しており、咬合縁には剛毛が密生する。
また、各節が幅が広く短いため、非常に重厚感を感じる。
本種のはさみ脚は、国内のテナガエビ類の中でも非常に特徴的であるが、このような立派な鉗脚を有する個体は滅多に見られない。
■ 額角
額角長は第1触角柄部先端に達する程度であり、ネッタイテナガエビよりも長い。
額角歯式は4-7 + 5-8 / 2-3 である
佐伯ほか(2018)では、
「雄の第2胸脚の形態が左右で大きく異なり、左右のうち小さい方の第2胸脚(小鉗脚)の可動指と不動指の間の大きな隙間が密生した長い剛毛で埋められる」
という特徴を持つ琉球列島産テナガエビ類3種(本種、ネッタイテナガエビ、カスリテナガエビ)をネッタイテナガエビ種群として扱っている。
(ヒラアシテナガエビもこの特徴と類似するが、本種群には含まれない)
![](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/e/ebina-1/20220211/20220211223940.jpg)
この3種は形態的・色彩的に類似するほか、同所的に生息するため、初見では識別が難しいかもしれない。
しかし、頭胸甲側面などの模様が異なるため、慣れれば現地でも容易に区別することができる(上図)。
ちなみに、国外では形態的に本種群に含まれる種が多く(例えば、M.placidum, M.hirtimanus)、分類が非常に難しいとされる。
■ 分類についてかつて、本種の学名"Macrobrachium lepidactyloides"には、カスリテナガエビの和名が充てられていた。
しかし、佐伯ら(2018)によって、カスリテナガエビとM.lepidactyloidesは別種であるとされ、M.lepidactyloidesにマガタマテナガエビの和名が提唱された。
なお、カスリテナガエビは未記載種である可能性が高いとされ、現在はMacrobrachium sp.として扱われている。
沖縄島で採集された雄の個体
第3腹節背面の白い横帯が明瞭な個体。
比較的小型個体であるが、大鉗脚は割と発達しており、あと1~2回脱皮すれば立派になると思われる。
この大きさの個体でも全体的に緑褐色を呈しており、ネッタイテナガエビとは異なり、個体ごとの色彩の変異は少ないのかもしれない。
沖縄島で採集された雄の個体
この体色が本種の典型的なものである。
頭胸甲側面や腹節側面の縦縞は赤みがかった暗褐色で、白色の横帯は不明瞭なことが多い。
基本的に、鉗脚が発達した個体は観察できないので、現地での識別は生時の色彩・模様によって行うと良い。
沖縄島で採集された雄の個体
腹節の白帯が不明瞭で、全体的に白っぽい個体。
腹節側面の暗色の1縦線は明瞭で、同定は容易である。
余談だが、本個体を飼育した結果がトップ画像の個体である。
沖縄島で採集された雄の個体(同行者採集)
体長50mmを超える大型の個体だったが、特徴的な大鉗脚は発達していない。
本種と同じく大鉗脚が発達するヒラアシテナガエビは、小さい個体でも発達した大鉗脚や小鉗脚に剛毛が密生するのに対し、本種に関しては野外で鉗脚が発達した個体を見たことがない。
沖縄島で採集された雄の個体
緑がかった体色に、赤褐色の縦縞模様がいかにも本種らしい個体。
余談だが、これまでに何匹も本種を採集してきたが、まだ1度も雌の個体を見れていない。
沖縄島で採集された未成体
この個体はおそらく未成体であると考えられるが、頭胸甲側面の模様や体側の線は明瞭であった。
しかし、体長10mm程度の個体では明瞭な線は確認できなかったため、幼体の同定は非常に難しいだろう。
西表島で採集された雄の個体
採集してから時間がたってから撮影したため、体色は茶褐色で本種の特徴となっている体側の1縦線も不明瞭である。
しかし、ネッタイテナガエビよりも掌部長に対する第2胸脚指節長が長い点で区別ができる。
ただし、はさみの形態は鉗脚の欠落・再生によって変化し、おそらくこの個体の大鉗脚は小鉗脚から変化したと考えられる。