マングローブヌマエビ Caridina propinqua De Man, 1908
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>ヌマエビ科>ヒメヌマエビ属
石垣島および西表島から記録されている。
現状、国内で記録されている両側回遊性ヌマエビ類の中では、国内における分布が最も狭い(地下水棲種を除く)。
また、分布域内であっても生息する河川は少なく、見つけるのは非常に困難である。
加えて、後述の生息環境も考慮され、環境省RLで準絶滅危惧(NT)に分類されている。
生息環境は、和名の通り、河川河口部のマングローブで、マングローブ林内の水路や潮溜まりなどに極在している印象である。
また、筆者は見たことがないが、水域によっては河川内でも観察できるという。
生息域での個体数は少なくないが、上述の通り、分布・生息河川・生息環境がすべて限られているため、非常に稀であるように感じる。
■ 外観・色彩最大体長は約22mmと、比較的小型である。
本種は、第3腹節が隆起する、いわゆる腰が曲がった形態をしているため、ミゾレヌマエビと類似すると感じる。
しかし、本種は、頭胸甲側面に赤褐色の明瞭な斜横線を持たず、額角先端部に鋸歯を持たないため、見誤ることはないだろう。
体色は、半透明の地に赤褐色や暗青色などの小斑が見られることが多い。
■ 額角
額角歯式は 2-5 + 8-16 / 2-8 で、額角は第1触角柄部第2節中間から第3節先端に達する程度である。
先述したが、ミゾレヌマエビとは異なり、額角先端部に他とは離れた鋸歯を有さない。
余談だが、コエビ類では河口域に見られる種であるほど額角が長くなる傾向がある(例えばツノナガヌマエビ、ナガツノヌマエビ、スネナガエビなど)。
しかし、本種はヌマエビ類の中でも特に海水の影響を受ける環境に生息するが、上記の種と比べて額角長が短い。
筆者の憶測であるが、この要因として、本種がマングローブ林内の水路や潮溜りなど、大型の捕食者が侵入しづらい特殊な環境に生息するため、対捕食者戦略としての額角を発達させる必要性が低かった可能性などが考えられる。
真偽は謎であるが、コエビ類の額角長の適応意義は非常に興味深い。
川原ほか(2019)によると、日本産の本種は第6ゾエア期とデカポディッド期を経て、約11日で着底する。
これは、ヒメヌマエビの8ゾエア期、約32日で着底 などと比べて非常に短い。
また、浮遊幼生期の生残可能な塩濃度は幅広いが、純海水(34‰)では死滅するため、海洋を介した分散力は高くないことが想定される。
一方で、国外ではインド、スリランカ、マレーシア、フィリピンや中国など、非常に広い。
また、タイプ産地のインド東部の河川周辺で採集された個体群は、川原ほか(2019)が扱った西表島の個体と比べて浮遊幼生期が大幅に短縮されているなど、明らかな差異があるという。
このことから、C.propinquaには複数種が含まれている可能性が非常に高く、日本産の個体は真のC.propinquaではない可能性も指摘されている。
本稿では、川原ほか(2019)と同様に、便宜的に日本産の本種をC.propinquaとして紹介する。
西表島で採集された抱卵個体
頭胸甲側面に斜横線があるようにもうかがえる。
しかし、額角先端部に鋸歯を持たず、頭胸甲上歯数が多いので容易に識別ができる。
浮遊幼生期が短いだけあって、卵径も他の小卵多産型のヌマエビ類よりも大きいように感じる。
西表島で採集された雌の個体
半透明の体色に、金色の斑などが散りばめられた体色の個体。
形態的だけでなく、色彩的にもミゾレヌマエビに類似するように感じるが、南西諸島産のミゾレヌマエビは頭胸甲側面の斜横線が明瞭になることが多いので区別は難しくないだろう。
西表島で採集された雌の個体
上の個体と同所的に採集された個体。
体色は半透明の地に赤褐色や金色の斑が散在する点で類似するため、おそらくこのような体色がベーシックだと思われる。
西表島で採集された雄の個体
本種はヌマエビ類の中でも小型種であるため、かなり小さく感じた。
額角の雰囲気は、ミゾレヌマエビよりもヒメヌマエビに類似するように感じる。
西表島で採集された雄の個体
頭胸甲側面の暗色斑が目立つ個体。
写真を見ていて感じたが、口器や第1胸脚あたりの基部が暗色に染まるのは本種の特徴なのかもしれない。
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