Crazy Shrimp

エビ好き大学生による淡水エビ布教ブログ

チュラテナガエビ Macrobrachium sp.

f:id:ebina-1:20210129162247j:plain
チュラテナガエビ Macrobrachium sp.
十脚目>抱卵亜目>コエビ下目>テナガエビ科>テナガエビ

日本に生息する未記載テナガエビ2種のうちの1匹(もう1種はカスリテナガエビ
体長約40mm程度とおそらく日本産既知のテナガエビ類の中では最小
未記載種であるという点からもわかるが、依然として分類学的地位が定まっておらず、レッドデータおきなわでは情報不足のカテゴリーに分類されているほか、個体数は極めて少ないと言及されている。

現在のところ、宮古島石垣島西表島から記録されている。
しかし、宮古島の生息地では大規模な工事によって環境が変わり、現在は生息が確認されていないという。

生息環境は、河川中上流域の早瀬環境で、経験上、ネッタイテナガエビよりも上流域で採集されることが多い。

体色や形態的にはコツノテナガエビの未成体と似ているように感じる(下写真)。
双方ともに腹節のに暗色の横縞が複数入るが、コツノテナガエビの方が直線的で細い。

f:id:ebina-1:20210130003119j:plain
左からコツノテナガエビ、チュラテナガエビ

ちなみに、放幼においてもコツノテナガエビと類似している。
筆者の自宅で飼育している抱卵を観察したところ、コツノテナガエビやオニヌマエビ類と同様に、強いエアレーションを呈した飼育槽内であっても放卵(放幼)せずに、発眼後長期にわたって抱卵し続けた。(発眼卵をスポイトで採取しエアレーションをかけたところ、1時間以内にほとんどの卵が孵化した)
このことから本種はコツノテナガエビなどと同様に、強い流れのある環境でしか放幼しないことが推測される。
また、ゾエア幼生の至適塩濃度は28‰前後で、筆者の飼育では着底まで至らなかったが、少なくとも2か月以上の浮遊期間を有することがわかった。
(おそらく腹肢が形成されていた点から第9~11ゾエア期程度までは達していた)

 

経験上、成熟した雄は黒が強くなる傾向があるように感じる。
第2胸脚は黒い指節に対して掌部は白くなることが多い。

f:id:ebina-1:20210129161757j:plain
額角の形状はネッタイテナガエビ種群のものより幅が広く、木の葉型に近い。
また、額角歯式は3+6-9/3とされているが、筆者は写真のように頭胸甲上に4歯持つ個体を確認しているため、実際はもう少し変異の幅が広いと考えられる。

鉗脚に関しては、成長段階や性別によって形態が大きく異なることが多い。
成体の雄の個体は掌部が大きくなり、ヒラテテナガエビのような形状になる。
加えて、鉗脚は左右対称である場合と非対称である場合がある点ヒラテテナガエビと類似している。

f:id:ebina-1:20210129160858j:plain
上の写真は脱皮殻であるが、雄の第2胸脚不動指には明瞭な1つの棘があり、可動指はそれとかみ合うように小さな2つの棘の間に窪みがある。
また、鉗脚の掌部や可動指には小棘が密生する。
上述したように、鉗脚の指節は黒色になるが、この色は脱皮殻においても維持されることから、本種を同定するうえでの同定形質になり得ると感じる。

 

余談だが、台湾などで記録されている M.horstii と酷似している
個人的な憶測だが、筆者は台湾産の M.horstiiとチュラテナガエビは同種で、真のM.horstiiは形態的に異なる別種ではないかと思っている。
このあたりの分類に詳しい方は、コメントでご教授いただけると幸いです。

 

f:id:ebina-1:20200826160145j:plain
八重山列島で採集された雌の個体

頭胸甲内に緑色の卵巣が発達しているのが見える。
具体的な同定形質を紹介していなかったが、少なくとも筆者は頭胸甲側面後方の1本の明瞭な曲線の確認を重要視している。
ただ、色彩的に類似する種がいない(せいぜいコツノテナガエビの幼体)ため、同定に苦労することは無いと感じる。

f:id:ebina-1:20201220031500j:plain
八重山列島で採集された雄の個体

体長35mm程度の成熟した雄の固体。上の雌と比べると黒っぽい
あまり目立たない体色に、金色の斑が見られ、上品な美しさを持つ。
また、この固体も頭胸甲上に鋸歯が4歯あるように見える。

f:id:ebina-1:20200826162452j:plain
八重山列島で採集された雄の個体

上方から見てみると、大鉗脚掌部がかなり大きいことがわかる。
小鉗脚は再生の途中のように見える。
撮影が長引き若干色が落ちているが、掌部はもっと明確に白いことが多い。

f:id:ebina-1:20211204014605j:plain
八重山列島で採集された抱卵個体

約30mm程度の個体だが、立派な個体と言っていいだろう。
この個体は、地色の濃い茶色と白い斑や横帯とのコントラストが絶妙である。
下の個体と比べてみるとわかりやすいが、本種の雌の第3腹節背面後部には、腹節腹側まで続く黒帯が出るようだ。
また、黒帯を前縁にでる白帯は、非常に複雑な形状であるが、下の個体と類似しており、このような模様になりやすいのかもしれない。

余談だが、この個体は撮影中に放幼を始めてしまったため、撮影後、慌ててリリースをした。実際、写真には本種のゾエア幼生が映っている。

f:id:ebina-1:20201220031328j:plain
八重山列島で採集された雌の個体

この個体のような金色が際立つ美しい個体は、なかなか見ない。
さらに、地色が青く、まさに「チュラ=美ら」という感じだ。
これに関しては、和名を提唱した方のセンスに脱帽である。


八重山列島で採集された雌の個体

いかにも本種らしい色彩を有する個体である。
この個体は雌にしては大型な個体であるが、オスと比べてはさみ脚の指節長が長い印象である。

f:id:ebina-1:20211204014610j:plain
八重山列島で採集された抱卵個体

上の個体よりも地味であるが、このような体色の個体が多い。
発眼前の卵は、多くのテナガエビ類と同じく緑色である。
撮影中には気づかなかったが、この個体の額角上縁には15歯があり、既知のものとは大きく外れている。
この個体が、本当に本種かは知り得ないが、本種の形態学的知見の蓄積が望まれる

 

f:id:ebina-1:20210330151720j:plain
八重山列島で採集された雌の個体(同行者採集)

おそらく、このような体色がベーシックなものである。
腹節の横縞や頭胸甲側面の斜横線は暗褐色であることが多く、鉗脚掌部は黒い指節と対照的な白色を呈する


八重山列島で採集された個体

このサイズでも十分成体であると考えられる。
おそらく本個体は雄であるが、このサイズでもハサミの形態は雌雄で異なっているように感じた。

f:id:ebina-1:20210330152155j:plain
八重山列島で採集された幼体

幼体に関しては、特に情報が少なく同定に自信が持てない。
筆者は、上の個体らと同様に腹節に茶褐色の横帯がある点、頭胸甲側面に斜横線がある点、鉗脚掌部が白色(透明)である点などから本種と同定した。
成体とは異なり、はさみの先端は黒くならないようだ。

f:id:ebina-1:20210330153216j:plain
八重山列島で採集された幼体

上の個体以上に色彩が薄い幼体。
幼体の鉗脚指節は透明で、可動指と掌節の継ぎ目に茶褐色斑を有するようだ。

 

CSPL ホームに戻る

 

参考文献一覧
・豊田幸詞, 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑, 緑書房, 東京.
・林春吉, 2007. 台灣淡水魚蝦生態大圖鑑(下). 天下遠見出版.
・藤田喜久, 2017. チュラテナガエビ(仮称). 沖縄県環境部自然保護課(編), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編) —レッドデータおきなわ—. Pp. 348-349, 沖縄県環 境部自然保護課, 那覇市.
・諸喜田茂充, 2019. 淡水産エビ類の生活史-エビの川のぼり- Life History of Freshwater Shrimps. 諸喜田茂充出版記念会, 東京.
伊藤茜, 藤田喜久, 諸喜田茂充, 2005. コツノテナガエビ Macrobrachium latimanus(Von Martens, 1868)の卵発生と孵化. Cancer 14: p5-8.